ホームページで「ひと目で分かるブランディング」という小文を書き始めました。ブランディングのヒントになるものを拾ってコメントしています。よかったら覗いてみてください。
causeplan.com/hitome1ntx.pdf
○入社試験に必要なパーソナル・ブランディング
○ マイナビの示す模範回答
○ トータルで1,000字近くなるエントリーシート
○ 面接官も人の子、読むのが辛い
○ ブランド・ソーマを使って好感爆上げ
前回 (77) で、パーソナル・ブランディングもブランディングである以上は商行為で、買ってくれるひと、言い換えるとクライアントが存在する、と書きました。
つまりはパーソナル・ブランディングとは「自分を売る」行為で、最初にアタマに浮かぶ例として2021年度M1グランプリ※お笑いコンビの錦鯉を取り上げました。
今回はパーソナル・ブランディングが必要となる別のケースについて書きたいと思います。
それは企業の入社試験です。新卒入社希望者はエントリーシートや履歴書などの書類審査を経て、筆記試験、面接審査へと進みますよね。
中途入社の場合は職務履歴書ですか。入社志望者はまさに全力で「自分を売る」わけですから、この全てのプロセスにパーソナル・ブランディングが必要になります。
意識せずとも大なり小なりやっているはずです。やっていないひと、出来ていないひとは…多分試験に落ちています。LOL
マイナビが新卒学生の場合のエントリーシートの作成の仕方を紹介しています。
学歴などの基本事項の記入の仕方はそれはそれとして、自己アピールのための重要事項として、自己PR、学生時代に最も打ち込んだこと、志望動機の三つをあげています。
それぞれに文章例をあげて、こうするともっと良くなると言う添削例が、注意ポイントと併せて書かれているわけです。
添削例、注意すべきところ、実に的を得ているなぁと感心しました。マイナビだけのことはあります。
紹介されている自己PRの項では、小学校入学以来、水泳に取り組んできた学生の例で、日々の努力や裏方としてのサポートもしてきたこと、その結果全国大会に出場できたことなどが400字強の文章にまとめられています。
主な注意点としては、結論は最初に持ってくる、結論を裏付ける経験や成果で説得力を持たせる、自分の弱点にも触れる、などがあり、読み手の立場も考慮して適度な文章量 (特に規定がない場合は400~500文字が目安) にすべしとのアドバイスと添削例が。
学生時代最も打ち込んだ項は、自己PRの内容を敷衍し、エピソードを入れ、人間的成長についても触れると良いと、書かれています。
えーと、完成形を見ると、実にそつなく出来上がっていて、文句のつけどころがありません。ありませんが、多分記憶にも残りません。LOL
多くのひとを対象としていると汎用性が必要となり、どうしても尖ったことは書けないんですよね。
わかります。で、私は逆に尖ったこと、極論を書きたいと思います。
ブランディングは一瞬にして対象者の脳の意識下に、好印象の楔を打ち込むものです。そして、打ち込まれた好印象は主に視覚と聴覚に凝縮されたブランドソーマ※をきっかけに蘇ります。
400字も費やしていては、むしろブランドは曖昧模糊としてしまい記憶に残りません。
私は会社員だった頃に何度も採用面接をしたので、実感持って断言できます。
400字の自己PRを読むのは辛い。
さらに400字の「学生時代に最も力を入れたこと」が待っている。
そして少し分量は減るが「志望動機」。併せて千字強。
「読み手の立場を考慮して」くれるなら、もっと短くもっと簡潔にしてくれ。LOL
だって、自分の担当する受験生だけで数十人にもなるんですから。50人だったら5万字ですよ。新書本の半分くらいのボリュームになるわけです。無理。
もちろん事前に資料としてそれらは目を通しておくのだけれど、当然志望者たちは「失敗しないエントリーシートの書き方」マニュアルを会得して書き込んでくるのであります。
畢竟みな大差ない「よくできたエントリーシート」の山となり、記憶に残ることは逆にないのです。
面接官を何度も経験したと書きましたが、私の記憶に残った、20年近く経った今でも思い出す女子学生のエントリーシートがあります。
マイナビの例を出したのは、エントリーシートと面接が記憶に残っている彼女が高校まで水泳選手をやっていたひとだからです。
この方のことはいたく感心して、備忘録にメモったので、よく覚えています。
その女性のエントリーシートの自己PRは、私の身体は水泳で出来ています、の一文から始まっていました。
人間ののカラダは60%は水である、とはよく言われることです。50%だったかな。まぁ、半分以上は水分と言ってよいのでしょう。
彼女のカラダは水泳で出来ている…水じゃなくて?え?と思った瞬間、もう彼女の話に引き込まれているわけです。
詳しく覚えてはいませんが、他にも面接の際に印象に残っているのは…
○私の肺活量は普通の人をはるかに超えている。水の中で三分息をとめていられる。(四分だったかも。とにかく、嘘っ!と思った記憶あり)
○スタートの号令音への反応が早いので、前半はいつもリードできる。これって、視覚と聴覚に訴えるブランド・ソーマになってますね。
結びつく先のイメージは
○肺活量大、ひとより長く息を止められる→我慢強い体育会系
○スタート号令音への反応早い→仕事での素早さ
なんですね、多分。
肺活量では、水の中に長い時間、目をあけて鼻をつまんでほっぺたを膨らまして我慢するスイミングスーツの彼女のビジュアルが浮かびます。
そしてスタートの反応がいいという話には、ピッというスタート号令音が聴こえてくるんです。
マイナビでは自分が打ち込んできたことの結果や成果を記入して説得力を持たせるようにとのアドバイスでした。
彼女も自己PRにインターハイ出場と書いてありましたが、記憶に残るのは肺活量と号令音反応の方が強いんです。
視覚聴覚にリンクされてますから。自己PRは「ビジュアルが見える」か「聴こえる」ように書くべし、というのがブランディング的見地からのおすすめです。まじで。
※M1 グランプリ 吉本興業と朝日放送テレビが共催している、毎年の若手の漫才師のナンバーワンを決めるコンテスト。全国テレビ朝日系列で放送している。2001年~2010年。中断後、2015年から再開。
※ブランドソーマ グローバル調査会社のミルウォード・ブラウン南アフリカの会長、エリック・デュ・プレシスの作った考えと造語。ひとの意識下に隠れている「直感」は多くの経験を踏まえたうえの合理的な脳の反応であり、ひとの行動を特定の方向に誘引する、とする著名な神経学者のアントニオ・ダマシオの説を敷衍して、ブランドに紐づけられる「直感」がある、それをブランドソーマと呼びたい、とプレシスがとなえた。ソーマ、Somaは英語で肉体という意味でmentalの対義語。直感は心理的、精神的なものではなく、脳に記憶された合理的な反射、つまり物理的、肉体的なものであるとする説。
◯ CHAT GPTによるパーソナル・ブランディングの定義
◯ ブランディングは商行為、パーソナル・ブランディングもクライアントがいる
◯ それは「自分を商品として売る」ことが前提
◯ アタマに浮かんできたのはM-1グランプリの2021年度王者、錦鯉
◯ 錦鯉に対するひとの意識下のブランド価値は?
パーソナル・ブランディングって最近よく聞く言葉だけど、いつ頃から広まったんですかね?
セルフ・ブランディングとも言われますよね。
人口に膾炙し始めたのは、今から10年ほど前からじゃないかなと思います。
facebookが日本で急速に増え始めた頃です。Twitterもユーザーが増加したのはこの頃でした。
つまりSNSの広がりと歩を合わせてパーソナル・ブランディングという考えが出てきたと言っても良いのかと思います。
ちなみにCHAT GPTのAIチャットくんに「パーソナル・ブランディングの定義とはなにか?」と質問してみましたら、こんな回答でした。
パーソナル・ブランディングとは、個人が自分自身を商品やブランドのように捉え、自己表現や情報発信を通じて他者にアピールすることを目的としたブランディング手法です。具体的には、自分のアイデンティティや価値観、ビジョンを整理し、その魅力や素晴らしさを自己表現や情報発信を通じてアピールすることで自己の価値を高めることを目的としています。パーソナル・ブランディングは、自己啓発やキャリアアップ、ビジネス展開などに役立ちます。
AI チャットくん
なるほど。CHAT GPTは実にそつなく文章化してくれますね。でも、わかったような、わからないような。言語明瞭、意味不明みたいな。どこかの国の首相のような。LOL
ちなみに、私はCHAT GPTを使うためには、AIにケチをつけることが必須だと思っているんです。
で、「ケチをつけるマインド」でこの回答を見てみます。
ブランディングとは、商品・サービスに長期間にわたって買い続けてもらうための昇華価値、Emotional Valueをつけること…簡単にいうとそういうことだと私は解釈しています。
つまりブランディングは、買ってくれるクライアントがあってこその行為です。
AIチャットくん曰く「パーソナル・ブランディングとは個人が自分自身を商品やブランドのように捉え、自己表現や情報発信を通じて他者にアピールすることを目的としたブランディング手法です」AI チャットくん
なるほどね。自分を商品やブランドのように捉える・・・自分を冷静に見て商品やブランドのように捉えるなんてことをひとは出来るのかしら…という疑問はひとまず置いといて。
「自己表現や情報発信を通じて他者にアピールすることを目的とした」…これには一言言いたいです。ブランディングは商行為なんだから、他者なんて曖昧なもんじゃなくて買ってくれる人、クライアントにアピールするものじゃないとおかしいでしょう。
ここで書かれている「他者」という言葉からはSNSを前提としている匂いがします。SNSだったらそうですね。
でも利益があがらないじゃないですか、基本的には。
ほとんどのひとはSNSで発信するのは承認欲求がモチベーションです。別に儲けるために投稿アップしてるわけじゃありません。
勿論、個人でECをするためやアフィリエイト、広告収入を得るためにSNSを使う場合は別で、その方々のパーソナル・ブランディングはまさしく利益を上げるための商行為で、歴としたブランディングと言えます。
AIチャットくん続けます
「具体的には、自分のアイデンティティや価値観、ビジョンを整理し、その魅力やその素晴らしさを自己表現や情報発信を通じてアピールすることで自己の価値を高めることを目的としています。」
「自己の価値を高めることを目的として」…これにもケチをつけたいと思います。
ブランディングは商行為なんだから、自己価値向上が目的じゃダメでしょ。目的は価値向上した「自分を売ること」じゃないと。
自分を売る…一番最初にアタマに浮かんだのは、お笑いタレントです。大阪の朝日放送テレビ (ABC) と吉本が組んで主催している、その年の日本一の若手漫才師を決めるM1グランプリ。
面白いことは必須でしょうけど、其々が自分たちの芸風をエッジをつけて自己アピールする工夫をしていますよね。
M-1 グランプリの2021年度王者、錦鯉を例にとってみます。50歳の長谷川雅紀と43歳の渡辺隆のおじさんコンビが日本一の「若手漫才師」の栄誉をゲットしました。
禿頭の長谷川が大声で「コンニチワー」と叫んで始まる漫才をご覧になったことはあるのではないでしょうか?
むやみに明るくてバカなおじさんが暴走するという、破壊的なパワーを持つお笑いが特色ですが、実は錦鯉のパーソナル・ブランディングはそこにあるのではないというのが私の見立てです。
表面的には「暴走明朗快活おじさん」がそうでしょう。
二人は下積みの長い、実に長い月日苦労をしてきたコンビなのは周知の事実です。諦めることなく艱難辛苦の果てにつかんだ栄光のグランプリ。
これって世界共通の強いモティベーションです。Dreams come true! ってやつです。
有名なマズローの人間の欲求5段階説※の、欲求ピラミッドの最上位に位置するのが「自己実現欲求」です。
艱難辛苦ガイの長谷川・渡辺コンビが体現した自己実現というパーソナル・ブランディングにひとは無意識下に共感、共振したんだと思うのです。
さてと。お笑いの次に「自分を売る」ということでアタマに浮かんだのは、採用試験です。これについては、またあらためて。
※ マズローの欲求5段階説
アメリカの心理学者エイブラハム・マズロー (1908ー1970) が、人間の欲求を断層的に分類して5つのレイヤーに整理した学説で、象徴的な5階層ピラミッドは広く知られるようになりました。一番底辺の生理的欲求から始まり、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求へと、人間の欲求は5段階を踏んで高次化していくという説です。
親の介護、葬儀などでブログを書く心の余裕がなく、結局一年近く未更新となってしまいました。ようやっと落ち着いたので再開したいと思います。
本ブログ其の73でチューリッヒ保険のブランドソーマの例を取り上げました。ハローチューリッヒ♪というジングルと並び、今や多くの保険会社が使うようになったヘッドセットマイクをし電話で相談に乗ってくれるオペレーターの女性の姿が実はブランドソーマになっていると書きました。
「ブランドソーマってなんだよ?」という方が殆どだと思いますので、まずは其の20でこの事について書いたくだりを簡単におさらいさせてください。
元コカコーラでクリエイティブ戦略を担当したBrand Strategistのダリル・ウェーバーは著書 Brand Seductionで、著名な神経学者のアントニオ・ダマシオの、直感というのは無意識 (意識下) の記憶や経験が人をより良い結果に向かわせ、または悪い結果を回避する感情であり、そのように人の行動を誘発するものだとする説を紹介しました。
ダマシオは、人の意思決定に影響を与える意識下からくるその直感をソマティック・マーカーと呼びました。Somatic Marker。
Somaticとは肉体的なという意味の英語で、心理的 (mental) の対義語です。直感は心理的なものではなく、脳からくる肉体的な信号であるとするダマシオの慧眼です。
そして後年、多国籍市場調査会社のミルウォード・ブラウン 南アフリカの会長、エリック・デュ・プレシスは、ダマシオのこの説を敷衍して、ブランドを無意識に想起させ購買に向かわせるSomatic Markerがあるとして、それを「ブランドソーマ」と名付けました。
好意的感情を無意識に発露させるブランドソーマを作り、それを広告や店頭広告で展開するのがマーケティング担当者の真の役割だと力説しています。
さて、私が保険会社と聞いた時に思い浮かべるブランドソーマが二つあります、と本ブログ其の73で書きました。
ひとつは上述のチューリッヒ保険のヘッドセットをして電話相談に乗ってくれるオペレーター、そしてもう一つは…ヒントはドナルドです、なんて気を持たせて続きは次回と書いて終わりました。
そのくせ一年あけてしまいました。失礼しました。ドナルドは、ドナルドダック、言わずと知れたディズニーの人気キャラクターです。アヒルですね。
そしてがん保険のAflacは「アフラック」と喋るアヒルをブランドアイコンにしています。
皆さん、Aflacと聞いて何を思い出しますか?
そうなんです。思い起こす二つ目のブランドソーマはAflacのアヒルなんです。
実はこのアヒル、本国アメリカでつくられ2000年から使われているAflacのブランドアイコンなんです。
アメリカでアヒルは家族や親しみを連想する動物であったので、ブランドアイコンとしてピックアップされた由。
しかもアヒルの声はアメリカで「Quack! (クワック!)」と発音され、これは「Aflac!」にとても似ている発音なんですね。目立つためだけに使われたわけじゃなくて、ちゃんとした理由があったんですね。
ちなみにAflacはのAmerican Family Life Insurance の略です。しかし消費者にとってはこんな長い名前は頭に入ってきませんし、覚える意味もない。
本国アメリカでも通称Aflacで日本でも近年Aflac アフラックと表示するようになりました。
アフラックは日本で初めてがん保険を発売したことで知られていますが、実は世界でも初めてだったんですね。(Aflac Japan ホームページより)
本国アメリカではアヒルのブランドアイコンが採用された理由はアヒルが家族と親しみの象徴だから、と先述しましたが、日本では別にアヒルが家族を象徴しているわけではないし、アヒルの鳴き声は「Quack!」じゃなくて「ガーガー」か「グワァグワァ」と言われるので、アフラックの発音とは似ても似つきません。
日本でこのアヒルのアイコンが効果的だと私が思うのは、性質上ネガティブなイメージをどうしても払拭できないガン保険というカテゴリーを、少しでも明るい方向に感じさせる効能をアヒルが持っているからです。
アヒルって根アカな感じがしませんか?☺️ 根暗じゃないですよね。これ、カラスだったら、根暗な感じがして少し気分が落ち込みません? 笑
ということで、実はAflacのアヒルのキャラクターは、日本ではガンの治療を「前向き」に捉えてもらう効果のあるブランドソーマとして機能しているというのが、私の見立てです。どうでしょうか。
渡辺謙が「こんな小さな文字は読めな~い!」と咆哮するハズキルーペのTVCMを観て、買おうか買うまいかグズグズしていた自分は一転してポジティブな気持ちになり、すぐにWeb通販で購入したと前回書きました。
アメリカの心理学者ヘンリー・マレーが発表した39種類の人間の欲求リストを本ブログの「其の38」ブランディングは脳科学⑧でご紹介しました。ハズキルーペのコミュニケーションは実はこのうちの2つの欲求を満たす強いブランディングをしているのではないかと思います。
その2つとは以下の二つ
◯ 達成欲求
◯ 不可侵欲求
ハズキルーペで達成欲求とは大袈裟ですが、要は困難や障害を乗りこえて目標を達成したいという気持ちのことです。小さ過ぎてできない作業をできるようにする、小さ過ぎる文字を読めるようにする・・・これも立派な目標達成です。
もう一つ、私の場合これが強く背中を押してくれたのですが、不可侵欲求。簡単言うと、自尊心を傷つけられたくないという欲求です。これってとっても強い欲求だと確信します。
メガネの上に掛けて字が大きく見えるならいいかも、と石坂浩二さんが演ずるU.S.P.アプローチ*1のTVCMを観て購買心が疼きながら、ルーペを掛けて書類を読むのは恥ずかしいなぁ、と尻込みしていた自分です。なんかいかにも老人だよなぁ、と自尊心がチラチラと顔を覗かせてブレーキをかけるんですね。
それが・・・渡辺謙さんが「新聞も企画書も、小さ過ぎて読めな~い!」と雄叫びを上げてくれたお陰で、読めないオレが悪いんじゃない、そっちが悪いんだ・・でもハズキルーペを掛けて読んでやるよ・・・となって、自尊心は傷付かないわけです。
超共感です。ブランディングの初期段階は好感を得ること、次のステージは共感を得ることです。ハズキルーペ、一気に共感ゲットのステージに行ってます。
ハズキルーペの「読めな〜い!」TVCMは二つの心理的欲求を刺激して共感ゲットの強いCMだったんですね。
実は渡辺謙さん咆哮篇の裏にはハズキルーペのトップの英断が隠れていました。
その人の名は松村謙三。企業再生を手掛けるプレヴェ企業再生グループを創業し、多くの企業のM&Aを手掛けてきた企業買収のプロフェッショナルです。
ハズキルーペはその案件のひとつです。氏は自らが会長を務めるハズキルーペの飛躍を狙って、それまでの石坂浩二さんやジュディ・オングさんが広告タレントで出演していたCMから、渡辺謙が「読めな~い!」と咆哮するCMに咆哮転換します。
松村氏は強烈なインパクトのある商品中心の広告を作りたかったそうですが、部下から提案された「大物」CMディレクターの広告案はどれもイメージCMばかりで、商品の事を語るのではなく自らの「作品」を仕上げることに注力していると断じた氏は、自らが陣頭指揮を取って「読めな~い」CMを完成しました。それこそCMのプロデューサーを自分自身でやったわけですね。
広告代理店から見るとかなり「厄介な」社長さんです。😀
しかし・・・結果、このTVCMは大ヒット、製品の売り上げも爆発的に伸張しました。
本ブログの其の52*2で、こんな事を書きました。
◯ そもそもミドルクラスはリスクの大きな提案はできない(伊藤邦雄・一橋大学名誉教授の著書「コーポレートブランド経営より)
◯ 上に忖度して練ったノーリスクなプランは、現場と決められない中間管理職の間を右往左往して、結局タイミングも逃す
◯ 即決するにはトップマネジメントが自ら乗り出す必要あり
◯ ブランディングは経営トップの仕事。下に任せる類のものではない。ネスレの伝説的元会長の故マウハー氏の言。
松村氏はあるインタビューでマウハー氏の言を引用して同様のことを語っています。まさに氏はマウハー元会長のこの垂訓を実証してみせたんですね。
イメージCMやタレントCMではなく、商品を売るCMを作りたかったと氏はあるインタビューで語っています。広告業界で言うところの「ハードセル」です。
CMのテーマは「怒り」だったそうです。*3「怒り」で強烈なインパクトを出す。確かに渡辺謙さん吼えてます。
でも。このCMの見事だった点は、「怒り」を媒介に「そうだ、そうだ!」というポテンシャルユーザーの、マレーの言うところの「不可侵欲求」=自尊心を守りたい、という強い潜在心理を刺激して、ブランディングの第二段階である共感を引き出した点にあります。達成欲求は元々ありますから、これが大きい。
ハズキルーペCMは、海外製の粗悪品と差別化する日本製である事を強調するために、女性がお尻で踏んづけてしまっても大丈夫であるとか、多分銀座の高級クラブでナイスミドル*4が掛けてスタイリッシュさを見せる・・・などマーケティング施策をサポートすることもしっかり押さえてます。まぁこの辺は、セクハラ観点から言うとギリギリのところですけどね。😅
でも。やはり決め手はポテンシャル・ユーザーの共感を引き出した「読めな〜い!」咆哮にあると確信します。
商品ハードセルに見えて、薄皮一枚下は実に見事なブランド・イメージCMです。
「こんな小さな文字は読めなーい」と大声で言い放ち書類を投げてしまう中年男性。何のTVCMでしょう?と聞かれたら、ほとんどの人が拡大メガネのCMと答えられるのではないでしょうか。ハズキルーペというブランドネームもaided*1ならばかなり高い想起率になるでしょう。
本稿はこのハズキルーペのブランディングについて考察してみたいと思います。
私はシニアメガネのユーザーです。かなり早くから老眼が出たので、遠近両用を使い始めてもう20年になります。そんな自分は、渡辺謙さんが「読めなーい!」と咆哮するCMの前の、実証型のTVCMが放映されていた時から、ハズキルーペには実は心惹かれていました。
石坂浩二さん、ジュディオングさん、長谷川初範さんが小さな文字が大きく見えるメガネ型の拡大鏡のU.S.P.アプローチのCMに出演していました。シニアメガネ、遠近両用メガネですね、これは文字がハッキリ見えるようにはなりますが、小さい文字は小さいままです。読みにくいことは読みにくい。
時計の説明書などは信じ難いフォントの小ささで、閉口した挙句に、拡大鏡を買った事があります。でも小さな説明書のページを開いて左手でおさえて、右手に拡大鏡を持って見ることのなんと不自由なことか。「ここ大事」と思っても、その箇所にラインマーカーを入れることすらできないんです。
ハズキルーペの発売当初の売り文句は「両手が使える新しい拡大鏡、メガネタイプの新ルーペのハズキルーペ」。これいいかも、と直感しました。細かい組み立てが必要になるプラモデル製作なんか、両手で作業できるし最高じゃないかっ!と得心しました。まぁ、プラモデルは作らないんですけど。
私はメガネオタクで、10本以上同じ度数のものを持って使い分けているのですが、メガネのツルのところにそのメガネのスペックが書いてあるんですね。このフォントはホントに小さい。これが読めるかもな、良いなぁと思いました。
でも結局購入には至りませんでした。石坂浩二、ジュディ・オング、長谷川初範、広告タレントの3氏は皆年齢の割に若々しいかたですが、やはりメガネ型の拡大鏡をつけるのは「年寄り臭くて」抵抗があったんですね。ハズキルーペは形状もスタイリッシュで、悪くないんですけど。何故か心理的抵抗がありました。
これが、渡辺謙さんの「読めなーい!」の咆哮CMを見て、コロッと買ってしまったのです。その時の自分の心持ちをあえて分析してみます。
一言でいうとそれは強烈な「共感」だったと思います。
こんなTVCM覚えてます?
ステージの上で、渡辺謙が「ほんとうに世の中の文字は小さ過ぎて読めなぁい! 新聞も企画書も、小さ過ぎて読めなぁい!」と険しい顔をして咆哮、手に持った書類を投げ捨てるんです。
メガネの上に掛けて字が大きく読めるならいいかもな、と石坂浩二さんのCMを観て購買心を煽られながらも、ルーペを掛けて書類を読むのは恥ずかしいなぁ、と尻込みしていた自分。
小さな字が読めない歳になっちゃったのか、情けないな、恥かしいなぁ・・・という気持ちと対峙したくない自分。
ところが、この広告タレント渡辺謙の押し出したトーン&マナー*2はどうです。「読めない小さい字を押し付けてくるアンタたちが悪い!」と暗に言ってるんですよね、これは。
フォントを大きくして企画書を書き直してこい!と言いたいところだけど、私はハズキルーペを持ってるから読め〜る!と言っている。暗に。😀
これを観て「そうだぁ〜!」と大いに共感し、ポジティブな気持ちになり、通販でポチりました。
ハズキルーペはネイリングや歯医者さん、時計の組立て、など細かい作業をする際に便利なんですね。でも一番大きな市場はやっぱり、「こんな小さな字は読めなーい!」が刺激をする書類を読むことや、読書でしょう。
文庫本、読み難くなったら立派なシニア層です。そして今では65歳以上の年齢の全人口に占める割合は3割近いのが現実です。*3
ざっくりいって3人に一人は高齢者なんです。マーケットは大きい。
ハズキルーペの流通経路別売上構成比は知りませんが、多分EC販売経路が一番多いのではないでしょうか。加えて、得心した販売経路ではメガネ屋さんがあります。メガネ屋さんの店頭に販売アイテムとして置いてあったのを見て、膝を打ちました。ハズキルーペはメガネの上から掛けて字を大きくして読むことができるんですね。
それと、美容院にも置いてあるそうです。美容院ではパーマをしている時に雑誌を読みますからね。これって、つまりアフィニティ・マーケティングです。
業種別の広告出稿量調査というのを電通が毎年発表しています。対象はマスコミ4媒体です。
これによると2020年度の総広告費は2兆1,363億円。同年のインターネット広告費はマス4媒体に並ぶ出稿量となったと言われていますので、この調査だけで業界別の動向を判断するわけにはいきませんが、メジャーな流れを見ることはできるかと思います。
今日は保険の広告について書こうと思うのですが、皆さん保険業界の広告の量は何位くらいだと思いますか?
保険は金融・保険というカテゴリーに仕分けられているので、銀行やカード、ローン会社も含まれており、純粋に保険という切り取りは出来ませんが、
電通の調査によると金融・保険カテゴリーは2兆1,363億円の総広告費の6・1%で6位なんです。思っていたより多いですか?それとも少ない?
ちなみに、自動車は金融・保険より1パーセント低く、8位なんですね。
1位から3位は、情報通信、食品、化粧品・トイレタリーの順で、全て10%超えてます。10%超はこの3業種だけなんです。情報通信? なにそれ?・・・って思われました?
携帯電話がこのカテゴリーに入るんです。激戦区、携帯電話の出稿量多いですもんね。
さて、話は保険です。
以前ブランド・ソーマという考え方について書きました。
世界的な市場調査・マーケティング会社のMilward Brown南アフリカの会長 Erik du Plessis氏が提唱した考えで、簡単に言うと、購買時点で人の購買を誘発する、意識下に刻まれた、ブランドにリンクした好印象 (または悪印象) の刻印のことです。
刻印はブランドのデザインやキャラクターだったり、音だったり、五感にわたり様々です。
私が「〇〇保険」と聞いた時に思い出すブランドソーマが二つあります。
実際にこのソーマが売上にどれほど寄与しているか、私はデータを持っていないのでなんとも言えませんが、両社が長年にわたりこれらのソーマを継続使用しているわけですから、効果大なりなんだと推測します。効果が認められなければ、とっくにお払い箱ですから。
ひとつ目は♪ハロー・チューリッヒのジングルが印象的なチューリッヒ保険です。
チューリッヒ保険会社はその名の通り、スイスで1872年に設立され、現在世界200ヵ国以上で保険業務をしているglobal insurance companyです。
自動車保険を中心に営業している損害保険会社ですが、私のアタマに差し込まれているイメージは、ヘッドセットマイクをして、電話で相談に乗ってくれるオペレーターの綺麗な女性です。記憶にあるかと思いますが、如何でしょう。
自分的には保険は、会社に訪ねてくる女性の保険外交嬢が机の横に座り込んで、イエスというまであの手この手で商品を繰り出して圧を掛けてくる営業手法がディファクトスタンダードだったんですね。生命保険ですが。いまは、会社はセキュリティー対策でフラッパーゲートを付けているとことも多く、保険の外交員さんも以前のように気軽に入る事は出来ないと思います。
ヘッドセットマイクを装着して、顧客と電話で保険の委細を詰めていくというこのスタイルは、私の記憶では、チューリッヒ自動車保険が最初だったように思います。今は他社がどこもやっていますけど。
チューリッヒ自動車保険のヘッドセットマイクを付けて喋るオペレーターは、女優の松木里菜さんが2006年から演じていて、今でも続いています。現在は俳優・歌手の石丸幹二さんがメインでCMをやっていますが、松木理恵オペレーターも健在です。
このTVCMで作られたブランド・ソーマはヘッドセットマイクをつけて相談に応じているオペレーターの図。ブランド・ソーマによって誘引されて繋がっていく昇華ブランドイメージは「納得」だと思います。保険外交員さんのペースに乗せられて、うまいこと丸め込まれた感がどうしても強くて、後になって余計な保険項目を追加して高くなってしまったんでは・・・という「疑問」がどうしても残るのが保険なんですね、私の場合。皆さんはどうですか?
でも、このように自動車保険をオペレーターさんと詰めていき、不要な条件をカットしていくことができるなら、安心です。結果的に安くなることも大事ですが、むしろ「納得」した安心感のほうが大きいです。
ブランド・ソーマはヘッドセットマイクをして相談に乗るオペレーター、誘因される先のブランド・イメージは「納得」安心感と思いますが、実はマーケティング戦略的にもきっちり消費者の心理をおさえています。
マーケティング戦略で「プロスペクト理論」の活用というのをお聞きになったことがある方は多いでしょう。
人間の「損をしたくない」という気持ち、得をするより損をしたくない気持ちが勝る、という性質を利用するマーケティング手法です。損失回避性、つまり無意識に「得を求めるより損を避ける」人間の心理のことですね。
オペレーターが相談に乗って、「不要な」条項をカットしていくというのは、「今まで知らないで付けていた事による損失」を無くすという、まさに損失回避そのものです。よく出来てます。入っちゃいますね。😄
さて、私が思い浮かべた保険のブランドソーマ、もう一つはなにか? 別稿で書きたいと思います。ヒントはドナルド。😄