必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の4 Kit Kat 考

同時通訳のお仕事時の必須アイテムはなんとチョコレート!?


2017年6月にMBS 情熱大陸*1でトップ同時通訳として活躍中の橋本美穂さんの特集をやっていました。

同時通訳に求められる様々な素養と努力には脱帽ですけど、それ以上に「え!」と思ったのが、同時通訳にのぞむ前にチョコレートの1ピースを口に入れるということ。頭の回転を早くするためだそうです。

国際会議等の同時通訳をするには事前に関係専門書を読みこむ必要はあるわ、通訳中には最適な訳を瞬時に判断して選択する必要があるわで、極限まで脳を回転、酷使するそうです。脳の回転をマックスにするために、通訳に入る直前にチョコレートを食べる由。

余りに脳が疲れてしまうので、複数の通訳さんが15分交代でやるそうですね。で、自分が通訳ブースに入る前にチョコレートをワンピース口に放り込むんで6時間の会議で3人で64粒食べたと橋本さんが情熱大陸で言ってました

さて、話はキットカットに移ります。福岡の言葉で「きっと勝つぞ」を意味する「きっとかっと」に発音が似ていて福岡の受験生たちが合格祈願のお守りにキットカットを買っている、というローカルの消費現象にネスレ日本の高岡社長*2が目をつけたのは彼がまだキットカット事業のトップだった頃の話。

高岡社長はこれを「受験生応援」キャンペーンに昇華させて日本のキットカットブランディングをしたんだけど、
上京して試験にのぞむ不安てんこ盛りの受験生たちの泊まるホテルにキットカットを「頑張ってね」ということで無料で置いたんですね。

困ったときに助けてもらったことは忘れないからね。これはキットカットを受験生が好感するきっかけになりますよ。

まぁその後受験生応援キャンペーンはJR九州と組んで応援の駅ばりや車体広告をしたり、日本郵便と組んでキットカット年賀状キャンペーンをしたり全国区になっていくんだけど。

実際にチョコレートには頭の回転を早くする効能があるんですね。まぁ脳の栄養補給は糖分しかない、って話は有名ですけど。これに加えてチョコレートの成分カカオにはなんちゃらいうポリフェノールが含まれていてこれが脳の回転を早くする由。ちゃんと根拠があるんですね。入試にのぞむ受験生には最適ですよね。

ご存知の通りキットカットって、長方形に裁断したウエハースを重ねてチョコレートでコーティングして棒状にしたチョコ菓子。

英国の北部の中世都市ヨークにあるロントリーという会社が製造販売して、英国内での成功を受けて英国連邦のカナダ、南アフリカ、オーストラリアと市場を拡大していき、今やグローバルブランドです。世界最大の食品会社ネスレが1988年にM&Aしました。小腹がすいた時にうってつけで、私は大好きなんです、キットカット


U.S.P. というマーケティング用語があります。Unique Selling Propositionの略で、簡単に言うと差別化された自社独自の強みということです。これは欧米企業で日常茶飯事に出てくる言葉です。「へ?」とか聞き返したら、もうそこで試合終了です。笑
で、キットカットのU.S.Pって何でしょうか?

MBASkoolというMBA学生を対象にした海外のknowledge portal siteでは、
キットカットのU.S.P.を次の様に紹介しています。
Chocolate covered wafer。
チョコレートでコーティングしたウェハース
え、それだけ? と言いたくなりますよね。
でも、短いほうが強みは明白です。
「チョコレートでコーティングしたウェハース」、充分ユニークです。
私はほかにこんな菓子は知らないです。世界を探せばあるのかもしれないですけど、
よく知られている製品ではキットカットしか知らない。

ちなみにユニークって言葉、これは日本で誤解されて広まってしまった英語の一つかと思います。日本で「ユニークな」って言われると賞賛ではなく、少し変わってると意味する場合が殆どです。同調性をよしとする国民性なんですかね。出る杭は打たれる。英語を母国語とする国ではユニークという形容詞はまず間違いなく賞賛系です。

日本で「ユニークな商品」と評されたら「面白い商品だね、でも売れるかどうかは別。」というのが真意ではないですかね。英語ではunique productと評したら、それは独自の強みのある期待できる商品を意味します。


で話は戻ります。Chocolate covered wafer.
これがMBAskoolの定義したキットカットのU.S.P.。
社内書類を見たわけじゃないから、ネスレ本社がどう定義してるかは分かりません。
さて、ここからが大事なんです。このU.S.P. ってブランディングの手前なんですね。

U.S.P. は機能的な強みを意味することがほとんどです。「我が社の製品の差別化された独自の強みは何か?」ということですから、必然的に機能的な強みになりますよね。
で、ブランディングの核はこのU.S.P.と同じベクトルの先に創る昇華された価値です。

前回書いた様に、メルセデスで言うならU.S.P.は車の基本的機能である「走る・曲がる・止まる」の全てにおいてベストパーフォマンスであること、即ち The Best Car。で、ブランド・イメージは「成功者」。四の五の言わずひと言なのがいいですね。




長くなるので*3、続きは次回キットカット考2で書きます。
きっと書くと…

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*1:毎日放送制作・TBS系列局ネットで1998年より放送されている人物密着ドキュメンタリー番組

*2:2011年11月〜2020年3月 ネスレ日本代表取締役社長&CEO

*3:当ブログは3分で読めることを心がけています