必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の7 続々 ブランドって何? ブランドという像

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 ブランドの核はユーザーの脳内に結ばれた像だ、と前回書きましたが、もう少しこれ深掘りしたいと思います。

 

ブランド・イメージとはよく使われる言葉です。でもこの言葉には自分は若干抵抗

を覚えます。何故か? ブランドはイメージそのものだからです。実体はありません。

イメージ・イメージと言ってるような同語反復感があります。

サルサ・ソース、チゲ鍋…みたいな。サルサスペイン語でソースの事ですし、

チゲは韓国語で鍋を意味する言葉。ソース・ソース、ナベ・ナベ。😅

 

 

バカ言うなよ、そこに商品がちゃんとあるでしょ、それは大きさも重さもある実体じゃないか。と言われそうですね。いや、ほぼ間違いなく言われる。😂

「そこにちゃんと商品はあるじゃないか」…そうですね、ありますよね。ここがキーポイントだと思うんです。商品は "product" です。この商品のことを日本では"brand"と呼んでしまいます。

 

物性をもつ売買される物体が商品です。そのものです。比してブランドはそれを

一部に取り込んでいる、より直径の大きなイメージ円  (抽象概念) です。

 

世の中にその商品しか存在せず、人々が求めるのであれば、別にイメージ付加は必要はありません。

例えば世の中に電気髭剃りはブラウン*1しかなかったとしましょう。そうであれば、大掛かりな広告も何も必要なく、世にビジネスマンの数が増えるにつれて売上も増えていくはずです。

朝時間のないビジネスマンは急いで剃刀を使って皮膚を切って出血してしまうわけにはいかないので、電気髭剃りを多用するのは必然です。イメージ付加をしない製品そのもの、で売れるはずです。

 

しかしながら、世に電気髭剃りはブラウンしか存在しないということはありません。

オランダからはフィリップス*2、家電大国の日本からはパナソニック日立製作所などが競合市場を形成しています。激しい競争環境です。

 

そこでブラウンが日本で長い間行ったTVCM、いまだに記憶に残る名シリーズ

を紹介したいと思います。題して「モーニング・レポート」シリーズ。

通勤で急ぎ足のビジネスマンを駅で、道でレポーターが声がけをしてブラウンの電気髭剃り

を使ってみるようお願いします。「朝ちゃんと剃りましたよ」と訝しがるビジネスマンが試しに剃ってみると。レポーターがヘッド部を取りプラスチックの板にトントンとやってみると、なんと髭の剃り残しが結構あるのでした…とういうプロット。

 

「他社製品では剃り残した髭もブラウン・シェーバーはよく剃れるので

根こそぎ処理できるんです。」というのが訴求ポイントの実によく

出来た実証型コマーシャルです。

後によく言われるようになるU.S.P.訴求です。Unique Selling Propositionというやつです。

敢えて訳すと独自の差別化ポイント・提案になるかと思います。

 

このTVCMシリーズは1981年から2003年まで20年を超える期間、同じプロットで

作られ放映された珠玉のロングセラーCMです。実は私もこのコマーシャルを見て

「社会人なんだからちゃんと髭は剃らないとな」と思い、

ちょっとお高いブラウン・ シェーバーを買った一人です。

 

ブラウン・ジャパンのマネージャーや制作した広告代理店がどう考えていたか

は今や知る由もありませんが、このCMは秀逸なU.S.P. 訴求をしていただけではなく、

ちゃんとブランディングをしていたと確信します。

 

表面上は「(他と違って) 剃り残しが無い」というのが訴求ポイントですが、

ここに込められたイメージは忙しい日本のビジネスマンがビシッと決める

「朝のKick-Starter」だったのだと思います。

 

この「モーニング・レポートのCMが始まった1981年、昭和56年は

バブル崩壊の10年ちょい前、破綻に向けてどんどん昇り詰めていくdecade、

同年にはフジテレビで「オレたちひょうきん族*3が始まり、新潮社から写真週刊誌FOCUS*4が創刊されました。1989年にはスタミナドリンクがCMで「24時間戦えますか?」と煽っていた10年期。

 

イケイケどんどん (昭和語ですかね、これ) の時代、ブラウン・シェーバーは

朝からビシッと決めて「戦地」に向かうビジネスマンへの応援歌だったのだと

思います。剃り残しがあっちゃ締まりません。☺️ ブランディングのコアは

Emotional Benefit 、つまり情緒的便益にあります。ブラウン・ シェーバーの

それは「戦場のようなオフィスに向かう自分の背中を押してくれるKick-Starter」

だったのだと思います。

 

ブランドは外部からの様々な刺激により脳内に結ばれた像であると前回書きましたが、

会社に入って以来のブラウン・ユーザーである自分の脳内に浮かんでいた「像」は

まさに「戦場のようなオフィスに向かう自分の背中を押してくれるKick-Starter」でした。

髭を剃っているとアドレナリンが出ているようで、段々と戦闘態勢になってくる。☺️

いまは真逆のスローライフな時代なので、このブランディングでは「そんなの嫌!」と

忌避されて通用しないでしょうけど。

 

ブランディングには企業側が意図しているブランディングと、ユーザー側が脳内に

思い浮かべているブランドがあり、この双方が同じベクトルにあるのが成功ブランディング

だと前回書きましたが、ブラウン・ジャパンがどのようなブランディングを意図していたのか、「Kick-Starter」ではなかったのか? 当時のご担当に聞いてみたいですね。

 

ところで。ブランディングは商品・製品を対象にするだけではありません。

サービスも同様です。ほとんどのケースがそうでしょうが、似たような競合する

サービスがある時は、一歩先を行くためにブランディングの出番です。

 

次はサービスを対象としたブランディングの好例について書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:1921年にマックス・ブラウンが創業したドイツの小型電気器具メーカー。最初の製品はラジオ。

*2:1891年ヘラルド・フィリップスがオランダに電球工場を設立創業した。

*3:1981年〜1989年 フジテレビ系列で

放送されていたお笑いバラエティ番組

*4:1981年創刊〜2001年休刊の写真週刊誌の草分け