必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の8 ブランドという像・サービス篇

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from FedEx HP
前回はサービスのブランディングについては触れていませんでしたので、

今日は其の話をしたいと思います。FedExについてのお話です。

FedExといえばアメリカでは動詞になっているくらいの
ブランドです。
Would you please FedEx this to Japan ASAP?
これ日本にフェデックスしといてくれる?急ぎで。
みたいな会話が日常です。。

ビジネスパーソンFedExを知らないひとはいないでしょうけど、
そのルーツをご存知ないひとが大半ではないでしょうか? 
昔、FedExの日本法人と仕事をしていたことがあるので、
同社のルーツを聞いたときにWOW!と思った記憶が鮮明です。
で、一応おさらいをします。

FedEx はFederal Expressの略です。1971年にアメリカで
元米国海兵隊のフレッド・スミス氏が創業しました。スミス氏は
イエール大学在学中に経済学のレポートでハブ・アンド・スポーク 
システム、つまりハブになる空港に荷物を集積しそこから全米に
再配送するという画期的なシステムの原案を既に作っていました。

1973年、スミス氏は創業後2年後にはこのハブ・アンド・スポーク・
システムを実行に移し広大なアメリカの主要都市25都市への
不可能と思われていた翌日配達を実現化しました。これはほんと
革命的なサービスだったんですね。以来会社は成長を続け今や
220か国でオペレーションをする国際貨物便の雄になりました。

冒頭で触れたように本国のアメリカではFeDexは動詞になっている
くらいのブランドです。

似たものにXeroxのコピーがありますね。昔コピーといえばXerox社が
独占していた時代がありました。
すっかり死語になりましたが、「これゼロックスしといて」と
皆が言うほどに動詞化していました。いまは「コピーする」ですよね。
FedExは今でもアメリカでは健在な動詞です。

以前マーケティングの定番の手法でU.S.P. アプローチというのが
あるとご紹介しました。Unique Selling Propositionの略で、
簡単に言うとまぁ差別化戦略です。独自の強みのお約束的な。

FedExのU.S.P.はシンプルにまとめると以下の4点だと思います。

  • ハブ・アンド・スポーク システムが可能にした迅速な配達 
  • 荷物の居場所をオンタイムで把握できる Web Tracking System
  • 650機を超える自社保有
  • 空港に専用の倉庫を保有することで迅速な越境ECが可能

それぞれについて深掘りはここではしません。事実としての具体的
な便益、つまりfunctional benefitがここにあるということです。

肝心なのはFedExがこの先にどういうブランディングをしているのか。
Emotional Benefitは何か?なんです。結論から先に書きますね。
それは最終的に届けてくれるデリバリーをするひとの
Commitment to delivery です。何としても届けるという
コミットメントへの『信頼」です。

MBA Skool*1ではFedExマーケティング戦略の柱には従来の
4P*2に加えて、FedExはService Marketing Brand なので
これとは別のPがあると書いています。そのPとはPeople、FedExの従業員です。
配送便ビジネスのバックボーンは人であり、遅れることなく時間通りに配達することへの
従業員のコミットメントを重要な経営の柱としていると書いています。

FedExは基本的にBーtoーBの会社です。
遅滞が致命的となるビジネス利用では「信頼」という
ブランディングは実はとても大事で、もちろん翌日配達も選択理由
としては大事な要素ですが、やはり「何があってもちゃんと届けてくれる」
という安心感が決め手となるはずです。『〇〇を使っておけば安心』ってやつです。
最近は減少傾向にあるお中元・お歳暮のアイテム選びも同様の
心理が働きます。『〇〇を使っておけば安心』は決め手になります。
特に大事な顧客や忖度すべき先生や上司などに送る際には。


トム・ハンクスFedExの社員を演じた2001年の米国映画 Cast Away
ではこのCommitment to Deliveryが全編を通じて描かれていました。
トム・ハンクスがロシア拠点を立ち上げたばかりで現地従業員の教育に
必死なマネージャーを演じています。分単位でのデリバリーの正確性
に心血注いでいるFedExのマネージャーの描写が続きます。
時間通りのデリバリーを可能にするのは最後は人であるということが
伝わってきます。

クリスマス休暇を過ごしに恋人と会いに来たトム・ハンクス演じる
主人公はロシアへ戻るFedEx機に同乗し、アクシデントで機は墜落。
一人生き残りこの無人島でサバイバル生活を送った果てに
4年後に輸送船に発見された彼はアメリカに帰還。
本拠地メンフィスでのセレモニーで『息子の一人が生還した」と
FedExのCEOフレッド・スミス 本人がスピーチします。

彼が亡くなったと信じ込んでいた恋人が今は結婚して子供もいることを知った
主人公はショックを受けますが、思いを断ち切り、新しい人生に向かって行きます。
ラストシーンは彼が4年間の無人島での生活でも守り通し、
持ち帰ったたボロボロになった未開封FedExの荷物を片田舎の宛先に
自分の車を運転して配達するところで終わります。まさにCommitment to Deliveryですね。

この映画はFedExの仕込みなのか?と思う程全編がFedEx物語ですが、
多分全面協力だけで、出資したりはしていないと思います。それほどに
アメリカでFedExというのは身近なテーマになりうる企業なのです。

これほどに従業員の配達へのコミットメントを重要視し
コミュニケートしてきたFedExですが、この映画の10年後に
配達員が荷物を放り投げるようにデリバリーした姿が防犯カメラに
写った動画がYouTubeに投稿され拡散、大炎上したのは皆さん覚えているか
と思います。直ちにマネジメントが謝罪をしましたが、長年かかって
築いてきたブランドイメージはこうした一つの「事実」で一夜にして
大きく毀損してしまうのがSNS時代の怖いところです。

大戸屋セブンイレブンなどで深夜にバイトが商品に関わる悪ふざけをした
『バイトテロ』などもそうですね。ごくごく一部の不心得者がやった例外的な
ことなのは明白ですが、なんとなく商品サービスを疑いの目で見てしまいます。
やれやれ。経営者はたいへんだ。

*1:マーケティングを学ぶMBA 学生を対象とした海外のポータルサイト。SkoolはSchoolの誤記ではない

*2:Product, Price, Place, Promotionの4P