必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の9 ブランドの構成要素

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蜜蜂の巣から名付けられた正六角形を並べた形のハニカム構造。外部衝撃に強い構造形であり、現在多くの工業製品や建築材料に使用されている。ブランド構造に当てはめるのは秀逸也。
ブランドの構成要素については、其の6で「外見」としてのfactorについて触れましたが、以前書いたように、中央大学大学院の田中洋教授は力作「ブランド戦略論」*1で「ブランド専門家の間で白熱している議論はブランドとは何かについて意見の一致をみない」「ブランドという言葉を定義するのは、群盲象を評すという状況に近い」とKapferer*2とAvis*3の言を引用して、ブランドとはつまるところ多面的に構成されている実態の見えないもので、説明は出来ないと言っています。(言っているんじゃないかと私は解釈。(^ ^) )

とは言いながら、ブランド戦略をコミュニケーション・レベルで策定する方法として同書で田中教授が電通と共同開発した「電通ハニカムモデル」を紹介して、コミュニケーションにおけるブランドの多面的構成要素を説明しています。ハニカムとはhoneycomb、言葉通り蜂の巣でありまして、多数の六角形仕切りのの集合体です。

まさに多面的なブランド構成構造を表するに適したものだと感じます。ブランド戦略は様々なレベルがあって、まずは経営とマーケティングが創り上げる経営戦略レベルでのブランド戦略、それをコミュニケーションレベルで整理、理解するブランド戦略、そしてこれが時間をかけて消費者の頭の中でブランド像をむすぶことになって初めて「ブランド」が出現するのだと思います。道のりは長い!ᕦ(ò_óˇ)ᕤ

したがってメーカーの方々が新製品を説明するときに「新しく出すブランドは」って仰るのを聞くと若干抵抗感があります。「今度の製品は」というべきじゃないかな、と。

さて、電通ハニカムモデルです。田中教授が電通と共同開発したこのモデルは、ブランドをコミュニケーション展開するときのベースとなる枠組、プラットフォームです。六角形のダイアグラムの表で7つの構成要素からなります。

それは、
コア・バリュー : ブランドの基本価値
シンボル : ブランドを象徴する記号
ベース・オブ・オーソリティ : ブランドの優位性を主張する根拠
機能的ベネフィット:機能的消費者便益
情緒的ベネフィット : 情緒的な消費者便益
パーソナリティ : ブランドを人に喩えたときの性格
理想的顧客 : 理想的なターゲット顧客像

ちなみに同書で英語は以下の様に記載されています。
Core Values 2) Symbol 3) Base of Authority 4) Functional Benefit 5) Emotional Benefit 6) Personality 7) Ideal Customer Images

長らくbranding-driven な西欧系企業とコミュニケーションの仕事をしてきた実践派・実戦派の私としては、最重要・最中核と思っているのは 5) のEmotional Benefit、情緒的消費者便益なんです。

7つの房が、構成要素が同時に成立する事はありません。やはり順番を追って構築しないとなりません。田中教授の付けた順番は理にかなっています。
まずは、1) Core Value ブランドの基本価値です。 核心的価値。あれもこれもはダメです。絞らないとダメです。「一言で言うと?」への答え。度々引用するメルセデスベンツの例で言うと、The Best Car。最高の品質、革新性、耐久性、安全性。で、The Best Car。当たり前の様ですが、ダイムラー・ベンツ社はあらゆる企業努力をこの Core Valueの実現維持に向けています。

Core Valueは経営側、メーカー側の身内で了解されたものと言えるかと思います。消費者側からは見えないもの。消費者側からは表出する2、3、4が感知できる要素でしょう。「メルセデス・ベンツはThe Best Carである。Das Beste order nights、ダス・べステ・オーダー・ニヒツ、つまりThe Best or Nothing、ベストでなければ無、という経営者の声が聞こえてきそうです。
何故これは身内了解のことかと言うのか? 消費者が脳内で像を結ぶブランドイメージはEmotional Value、情緒的消費者便益だからです。

ですから、構成要素の確認は 1→2、3、4。2はマークですから、自明。3のBase of Authorityは、Core Valueを言うに足る根拠です。要は「言うだけ番長」じゃダメです、ってこと。

4は機能的ベネフィット。この車はハイブリッドで燃費は30キロです!的なものです。事実に基づいたもの。ここでデータを改竄したりすると致命的というのはご存知の通りです。ここまでは順調に来ても次が実は大変なんです。情緒的な消費者便益、Emotional Benefit。これがブランディングの命、と私は確信します。

B-to-C メーカーやサービス提供会社の一大事です。どれほどの機能性に優れたものを生産しても、素晴らしいサービスを提供しても、このEmotional Benefitが感じられないと価値は上がりません。Emotional Benefit = Emotional Valueはadded value、付加価値です。これが創造できれば、6)のパーソナリティ、7)の理想顧客は自然と考えつくことができます。道なりです。

さて、次回は私の大好きなブランドの一つである米国のオートバイ・メーカーのHarley DavidsonのEmotional Benefitについて考えてみたいと思います。

*1:有斐閣 2017年

*2:Jean-Noel Kapferer ジャン・ノエル・カプフェレ。著名なブランド論学者

*3:Mark Avis ニュージーランドのブランド論学者