必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の10 ハーレーダビッドソンのブランディングについて考察する(大げさかよ)

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アメリカ映画「イージーライダー」(まとめNaverより)

アメリカを象徴するアイテムのひとつ、モーターバイクのハーレーダビッドソン。このブランド名を聞くと反射的に映画「イージーライダー」を思い出します。当時の人気ロックバンド、ステッペンウルフの曲Born to Be Wildが主題歌に使われてい、これもセットで思い出します。

名優ピーター・フォンダデニス・ホッパー二人が駆るモーターバイクはハーレーダビッドソンのフレームが長く前輪が突き出しているチョッパータイプ。どこまでも続くアメリカならではの国道を悠々と走る二人の姿はそれはそれは格好いいものでした。公開年は1970年で、私はまだ14歳のガキでした。

泥沼化したベトナム戦争真っ只中の時期で、アメリカ全土が反戦のムードに包まれていた頃です。ニクソンが大統領。伝説のロックコンサートがウッドストックで開催されたのはこの一年前の1969年です。この映画には若き日のジャック・ニコルソンも出ています。

1970年、昭和45年には日本は高度成長期真っ只中でした。そしてベトナム戦争で苦しんでいたもののアメリカはトランプ大統領が言う「Make America Great Again」のgreatなアメリカだった頃です。その頃のアメリカはピカイチの工業品生産国で、日本でもアメリカの車は垂涎の憧れでした。私にとっては車のムスタングとこのハーレーダビッドソンは強いアメリカの象徴でした。

さて、そんな強いアメリカの象徴ともしばしば言われるハーレーダビッドソンですが、日本でもこの国産の車より値段の高いモーターバイクは大変人気があります。リッターカーをはるかに上回る大排気量を誇る力強いマシーンとしての魅力やがっしりした鉄馬の迫力が人気を支えているのは間違い無いところでしょうが、私がブランドの話をするときによく引き合いに出すのには別の理由があります。

マーケティングの世界では最近よく「Experience Marketing」と言われます。文字通りブランドとのリアルな多種な接点で記憶に残り好感度を醸成するマーケティングということなのですが、ハーレー・ダビッドソンはまさにこのExperience Marketingを実に長い期間行ってきています。UX、User Experience つまりユーザー体験とも言われます。

これがブランド・イメージを支えていると言ってもいいと思います。それがH.O.G. 、Harley-Davidson Owners’ Group の事で、ハーレー ダビッドソン (以降ハーレーと言いますね) を購入すると入会できる会員組織です。同社のホームページを見ると世界で100万人、日本でも3万5千人の会員がいるそうです。関係者は皆さん「ホグ」と言っているみたいです。

名前だけの会員組織ではなく実にアクティブな組織で、地区ごとに年何回もツーリングイベントを催しています。高速を十数台ものハーレーを連ねて悠々と走る「ハーレー軍団」を見かけることってよくありません? これって多分H.O.G.の会員さんたちなんだろうと思います。

H.O.G.は地区ごとに分かれていて、まぁ普通これを支部と言いますが、ハーレーはこれをチャプターと言います。ネットでチャプター検索ーHOGというページを開いてみてください。全国津々浦々のチャプターの紹介があり、ツーリングイベントの紹介もされています。その集合写真を見ると黒のレザージャケットに身を包んだごっつい感じの男女ライダーズが居並んでいます。

私はハーレーのブランディングの肝はここに見る事が出来ると思います。以前にも書きましたがブランドの命はEmotional Benefitです。情緒的便益。変な日本語なので、Emotional Benefitでいきます。結論から言うと、ハーレーのEmotional Benefit は「変身」だと思います。私の見立てですが。

ハーレーのEmotional Benefit は「自由を得る事」だとする見方を良く見聞きはしますが、私はこと日本のuserについては「変身」の方が近いかと思います。

ここに集ってきている中高年が中心の男女ライダーは家に帰ると商社の課長さんだったり、街のお肉屋さんのご主人だったり、製薬会社の総務課長女子だったりするのではないかと推察します。上司との人間関係や子供との意思疎通不調だったり、悩みでイライラしている人たちが、週末の一日ネクタイを外し、前掛けを外し、黒のレザージャケットに身を包み威風堂々高速を流すハーレー軍団になる・・・これは非日常への変身です。

ハーレーだからこそ提供できるEmotional Benefit。取り回しの良さはHONDA、SUZUKIの方が優れているかもしれない。スピードはBMWが勝るかもしれない。でも威風堂々とハーレー軍団で流す快感はきっと違うベクトルなはずです。
求めるのは走行性能ではなく、非日常への「変身」だからです。

ハーレーオーナーはカスタムメイドに嬉々として多額のお金を費やす事で知られています。わかります。それが変身キットなんだから。日本はタトゥーへの風当たりが強いのであまりいないと思いますが、本国アメリカでは熱狂的ファンは二の腕にハーレーのロゴのタトゥーを入れるライダーが多くいる様です。アメリカの国鳥の白頭鷲と組み合わせたバージョンのロゴはタトゥーにすると「映える」んですね。

ハーレーに見る「軍団化」、ルー大柴風にいうなら「トゥギャザーする」傾向はブランド体験のシェアリングという意味でしばしばあります。次回はその好例について書きたいと思います。主人公はアメリカのロックバンドです。The Greatful Dead。