必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の16 広告代理店のフィー制度について

 f:id:brandseven8:20200829091625j:plain 前回引用した玉木剛さんの著作「戦略PRの仕掛け方」で, 元外資系広告代理店JWTのクリエイティブ・ディレクターでキットカットの受験生キャンペーンを手がけた関橋さんの広告代理店の利益スキームについての発言が紹介されていました。これが的を射ているので以下要約します。

  "欧米の広告代理店は、クライアントの代理で媒体を買う商売からブランディング・コミュニケーションのコンサルと実行までが出来る「ブランディング・エージェンシー」に変わってきています。いわばコンサルティングの出来る頭脳集団。

  ギャラの一部も成功報酬になり、クライアントの売上が上がったらその何パーセントかをボーナスで貰える。反面目標達成に至らなかった場合は代理店契約を見直される事も。

  これならクライアントの売上を上げる為の手を色々考えられる。

  併せて多くの外資系広告代理店は働いた時間に応じて報酬を得るタイム・フィーを導入。これならメディアを多く扱う必要は無い。ブランドが成功すれば良い。

  日本の広告代理店はメディア広告枠を売って利益を上げるビジネスから抜け出せないので、タイムフィーにするのは難しい。

  テレビCMで莫大なお金を儲けていたのをタイムフィーにしたら利益が減るのは必定。利益は減るうえに成功しないといけないから大変。だから変革が進まなかった。"



  私は関橋氏の言う「テレビCMで莫大な利益を上げている日本の広告代理店」に在籍していながら外資系の広告主の担当、まさに二律背反の渦中にいたので、この問題の根深さを実体験していました。

  その経験から以下、忌憚のないところを吐露します。最初に言っておきますと、これは広告代理店の都合というよりは、日本の商習慣によるところが大きいという事。「電通よ、博報堂よ、お主たちも悪よのぉ・・」というような単純な話ではないのです。

  日本の広告主も広告会社も古来よりまず媒体ありきの考えが優先的です。古来というのは大げさですが、始めは明治時代の新聞の広告ですね。

  まずこの新聞の枠の売買が最初の一歩です。広告枠が決まると、次に広告内容です。これをつくる制作部、今で言うクリエィティブセクションをその昔電通では宣伝技術部と呼んでいたようですが、要は宣伝媒体が決まって、つまり掲載する新聞社とスペースが決まってから、内容の方をつくるという順序であり、小池都知事話法的に言うと「スペース・ファースト」です。

  家を建てることに例えて言えば、まずは土地です。家屋は買える土地が決まってからの話です。どんな家に住みたいかじゃなくて、まず何処に住みたいか、土地が確保出来るかが先ってことですね。


  簡単に言えばここが原点です。〇〇新聞は電通に、△△新聞は博報堂に、地方紙は・・・という配分を広告主がしても何の問題もない。むしろ土地の売買は一社に絞らないほうが合理的、魅力ある土地を持ってきたもん勝ち、という考えです。

  中味は別。つまりクリエイティブの内容は媒体扱いをする広告代理店じゃなくて構わない。というのが連綿と続く商習慣です。

  広告・コミュニケーションの成否の鍵を握るのは中味にあたるクリエイティブ、ということが理解されていないわけではないのに、その肝心のクリエィティブにはメディア取引に匹敵する報酬スキームは無いというのが日本の現実です。

  先日急逝した稀代のクリエイティブ・ディレクター、岡康道氏は友人の残間里江子さんとのインタビューでこのように言っています。

  「日本の広告会社の利益というのはコミッション、企業が媒体を買う時の手数料なんです。欧米のように5%という決まりがないので、そこで幾らとってもいいという独特な方式が*1、日本の広告会社の繁栄を支えて来たんですね。」「その莫大なコミッションの陰に隠れてしまって、代理店のクリエィティブへのフィーというのは、当然支払われないんですよ。*2


  何故こうなるのか? クリエイティブが媒体単位で、その場ソリューションだからです。今年の夏のテレビキャンペーンのCMは〇〇…ってやっておいて、次の年はCMは△△…って平気でやってます。

  前出の関口さんの指摘通り大事なのはブランドコミュニケーションなんです。一つ一つのテレビCMの内容なんかじゃない。テレビCMはブランドコミュニケーションの方針で導き出された成果物であるべきです。

  さて、複数の広告代理店を使って良い土地、業界的に言うと媒体枠ですね、これを契約するということは、逆も真なりで広告代理店の側でも同一業種で複数の広告主と取引をします。

  一業種多社、つまりPanasonicSony三菱電機も、みずほ銀行三菱UFJも三井住友もやってます、ということです。これが日本の広告取引の商習慣です。

  比して欧米の広告取引の商習慣は全く違います。一業種一社の厳密な原則があります。企業は広告代理店に一心同体を求めるわけです。逆も真なりで、広告代理店は企業に他の広告代理店を使わないように求めます。以前紹介したアメックスですが、アメックスと米国の広告代理店オグルヴィ&メイザー社は長年のパートナーとして普遍不変の関係です。

  そして大事なポイントは、欧米企業の場合、媒体の扱いは制作内容物とは別に考えているということです。
  媒体(メディア)広告スペースの取引は基本的にメディアバイヤーと言って、メディア取り扱い専門の別な会社に発注します。これをアンバンドリングと言います。

  そして、メディアバイヤーは低いコミッション率でこれを行います。先述の故岡康道さんは「5パーセントという決まり」と断じて😁いましたが、実は特に決まりはないんです。価格競争の結果、5パーセント位ということはあるかも知れませんが、発注金額の規模次第で、大きければ更に低いコミッションはあります。

  多国籍欧米企業は、コミッション低減を視野に、グローバルでのメディア発注を一社に集中して任せることが多々あります。その規模は世界を束ねると何百億円にもなるんですね。半端ない。😀

  欧米企業はメディア・スペースの売買は効率で見て、制作内容物、つまりブランディングですね、これについては効果で見ていると言って良いでしょう。そしてブランディングに関する仕事を、高付加価値のものとして、より優先的に考えています。




 長くなりましたので、続きは次回に。

*1:幾らとってもいい・・・競争の原理でこれは実際には出来ませんね。今ではむしろ値引きを競う為に手数料を崩す方が多い。

*2:支払われないというのは誤解を招きますが、成果に見合ったレベルのフィーが支払われるかということであれば、その通りです。