必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の17 広告代理店のフィー制度について (2)

  
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前回のブログで、元外資系広告代理店JWTのクリエイティブ・ディレクターで、ネスレ日本キットカットの受験生キャンペーンを手掛けた関橋さんの、外資系広告代理店の利益スキームについての発言を紹介しました。曰く「多くの外資系広告代理店は働いた時間に応じて報酬を得るタイム・フィーを導入。これならメディアを多く扱う必要はない。ブランドが成功すれば良い。」
  

何故大きな利益の見込めるマスメディア広告ではなく、国内広告代理店がやりたがらない手間ばかり掛かるブランドPRをやっていられるのか、という問いに対する答えがここにあります。


タイム・フィーと言っても欧米の広告代理店とのフィー制度取引は大きく2種類のやり方があります。

その一つはTime Charge Fee と言われるシステム。もう一つはRetainer Feeと言われるものです。Time Charge Feeは文字通りで、タイムチャージ、つまり当該の仕事に担当の人間が費やした時間を分単位で記録してこれを後に請求するという形です。もう一つのRetainer Feeというのはretain,これは英語で「抑える、雇っておく」という意味で、つまり特定の人間のworking timeをどの程度の割合で抑えるかという請求システムになります。

  
私の印象ですが、日本にはTime Charge Feeというのは合わないと思います。極論すると、電話で見積もりの説明をしている時間も請求対象になるんですから。説明が下手でやたら電話に時間のかかる広告代理店の社員がいたら、スポンサーはアタマにきますよね。☺️


クリエィティブ・ディレクターがなかなか良いCM案が作れず、打ち合わせ会議が延々と続いたら? Retainer Feeもタイム・フィーという意味では本質的には同じものですが、Time chargeで時間刻みで請求がなされるとスポンサー・広告代理店間で摩擦が起こりやすくなりますよね。それが人の性です。


どちらもその仕事を担当する人間の人件費単価が基準となります。担当者についた値札ということですね。担当者の年間の給与だけではなく、バックヤードの間接費が加わります。(特定の担当者の年収+間接費) X 担当者の拘束比率が Retainer Feeの基礎となります。これにマークアップ率、コミッションに当たりますが、これを乗じたものが年間のRetainer Fee。12で割った金額が月間の請求額になります。担当者の拘束率のことをFTEといいます。Full-Time Equivalentの略。

FTE 100%が特定個人がこなせるフルの仕事率ということです。会社員には当該スポンサーに関わりのない社内作業というのは必ずありますので、FTE100%という数字は現実にはありません。身も心もスポンサーに捧げてもありません。☺️ 90%がマックスですかね。 

特定のスポンサーを担当するチームが10名だとすると、各人の単価にそれぞれのFTEを乗じたものの総計が全体のRetainer Feeとなるわけです。


単価はそういうことですが、併せて大変大事なのがScope of Workといわれるものです。 日本語にすると「想定される仕事の範囲の見込み」。日本語になってないか。☺️ なんか良い翻訳が有りそうですね。

これはスポンサーがRetainer Feeを予算計上するに当たって、事前に広告代理店に提示するものです。年間にわたり、スポンサーが広告代理店に何を依頼するかの予定表です。

例えば。春期キャンペーンのマーケティング・プラン提案、TVCM2本、消費者プロモーション1案、秋期新製品導入マーケティング・プラン提案、TVCM1本、発表記者会見を含むPRの計画実施…という感じ。

これを受けて広告代理店はこの作業を完遂する為のチームの提案とRetainer Feeをセットでスポンサーに提案するわけです。TVCM案などのプレゼンは、これが全て済んでから行います。合理的。


多国籍企業の本社では、各国のマーケティング担当がちゃんと水準以上のScope of Workを提示し、それに基づいたブリーフィングを書面で広告代理店にしているかどうかを定期的にaudit、つまり監査ですね、これをしてました。監査内容は多岐に及ぶのですが。

 Auditorと呼ばれる職種の方が本国からやってくるのです。ローカル、日本法人のことを本社はこう言ってましたが、ローカルのマーケティング担当と広告代理店側の担当はいわば運命共同体で緊張してこのaudit会議に臨んだものです。

Scope of Workを作成し、準ずるBriefingを作るとなると当該の事業プロジェクトについては当然一社の広告代理店とスクラッチから行うことになります。分けることは考えられません。プロジェクトは相互関連する様々な用件の集合体ですから。


ブランディングに関わる仕事はちゃんと両社が合意したフィー(報酬)が約束され、メディア広告の仕事は別件となります。メディア広告の仕事とブランディングの仕事を同じ広告代理店が行うことは不健全であると広告主が考えるに至り、欧米では随分以前からunbandleといって、この二つの領域の取り扱いは切り離す風習が定着しました。

メディアの広告出稿についての作業は付加価値の少ない領域と見なされて、メディアバイヤーという専門代理店群が出現しました。広告主はブランディング担当の広告代理店にはメディア・ニュートラル、つまり特定のメディアにとらわれない提案を求め、メディアバイヤーには低コミッションを要求するようになったわけです。

メディアプランニングはまた別です。メディアについて、プランニングとバイイングを担務する会社を分けるという考えは合理的です。同一会社が担務すると、メディアスペースを取りやすいプランニングをするようになる可能性があるからです。つまりプランが「お手盛り」になるのではないかと。😁 



フィー制度は広告主と広告代理店を運命共同体化するに適した制度だと思いますが、いくつか現実的な問題があると思います。

年功序列の日本では若い人材の方が年収が低く単価が安く使えるので、スポンサーは若くて優秀な人材を求めます。部長以上は最低限にして欲しいですよね、高くなるから。😄

でも、若くて優秀な人材ってそうそういないんですよ。やっぱりある程度年次が行った経験者じゃないとスポンサーの期待するレベルのアウトプットが出来ない。

あと、自主提案をしなくなる。Scope of Work がしっかりしているので、これに集中するのが先決。小池都知事風に言うならScope of Work Firstです。自主提案は余裕がある時にしようという事になるのが必然です。そして、余裕がある時なんか、無い。😅


フィー制度には、広告代理店のモチベーションを上げるために、仕事が成功した時にはボーナスが出るボーナス制度もセットになっているケースが多々あります。

Retainer Feeが固定給って感じでしょうか。広告代理店は現金ですから、ボーナスには非常にテンションが上がります。私、経験者ですからよく分かります。😁

ボーナス制度を円滑に進行するためには、事前のKPIを両社できっちり握り合うことが必要となります。

KPI、Key Performance Index、つまり広告代理店の数値化された成績表ですね、これはスポンサーの当該商品の売り上げ系パーフォーマンスと広告の認知度等のスコアとの組み合わせとなる事が一般的です。広告の評判がいくら良くても、売り上げが上がらなければ意味ありませんから。

実はこの「KPIの握り」を巡って、水面下スポンサーと広告代理店は凌ぎを削ることになるんです。ボーナスがかかってますから真剣ですよ。群馬で生まれ育った強気女子の妻と普段から凌ぎを削っていいたので、私はこの交渉は得意でした。

コツは「最初は強気に突っ張って、様子を見て適当なところで折れる」です。これは妻との交渉で取得したラーニング。😅

話題が話題なので、脈拍が乱れてきました。今日はこの辺で…