必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の25 すしざんまいのマグロの初競はブランド・パブリシティのお手本である

 大きな広告予算を持つ大企業とは違う中小企業は、パブリシティを積極的に行うことが

ブランディングに必要であると、ライズ親子はその著書The 22 Immutable Laws of Branding

で説きました。この点は私も同意します。ただし、パブリシティを企業がコントロールできるのは仕込みを行うまでであり、出目、つまり露出量や扱われ方まではコントロールできないことを理解しておく必要があります。一度手を離れたらパブリシティは自走するということなんです。思い通りには事は運ばない。😀

 

だからこそ、入念にパブリシティにのせるネタを設計吟味する必要があります。

 

前回そのパブリシティ・ネタを仕込む際の4原則について書きました。

すなわち、

1) メディアが取り上げたくなる

2) ブランディングの方向性に合致した

3) 掲載時の出目(出稿量、扱われ方)を計算した

4) 事実としてのプロモーション活動を設計し、実施する

 

・・・の4点です。

 

事例として岡山県倉敷中央病院が外科研修医の選考試験で実施したユニークな

適正判断試験(トライアウト)を取り上げました。特筆したいのは、このトライアウトに

メディアが好んで取り上げたくなるユニークなビジュアルがあったことです。

 

外科医の大事な適正に手先の器用さがあるのは言うまでもありませんが、ピンセットと

メス、瞬間接着剤を駆使して5ミリの極小折り鶴や、米粒大の寿司セットを作り、

バラバラになった昆虫を元の姿に戻すという3種のテストをトライアウトにした

というメディアの触手が動くような設定をした事がポイントです。

 

倉敷中央病院は地域が限定された例でしたが、今回は全国レベルで、しかも毎年同時期に

仕込まれているパブリシティの好事例について書きたいと思います。

 

その企業は(株)喜代村です。わからないですよね。寿司チェーンのすしざんまいを関東を中心に全国51店舗*1展開している会社です。

 

チェーン寿司店の店舗数のベスト3って知ってますか?

私は知りません。😁

ググったところ、

一位はスシロー 540店

二位ははま寿司 512店

三位はくら寿司 451店

日々増減して変わっているはずですが、2020年の1月末時点の店舗数です。

 

上位三位の店舗数に比べると、すいざんまいは51店舗で九位、かなり小規模ですね。

 

でも、丸顔で人の良さそうな木村清 社長が毎年、築地市場でのマグロの初競りに参加して高価なマグロを落札するニュースをテレビでご覧になった方は多いんじゃないでしょうか。店舗数上位3社に見劣りしない印象の強さがありませんか?

 

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2017年の築地市場マグロの初競り YouTubeより

 

これこそTVメディアを通じてのパブリシティの効果です。

 

実は何年か前に、この木村清 社長自らが出陣する初競り落札の費用対効果を個人的に試算してみた事があるんです。某方にブランドのTVパブリシティ効果を説明する資料としてつくりました。私算の試算ですが、そんなに大きく外れてはいないと思います。

 

ちなみにこの年、2017年のマグロの初競りの最高落札価格は7,420万円でした。

テレビ・ニュースには必ず取り上げる時節ネタというのがあります。お正月の初詣から始まって、成人式、卒業入学、梅雨、お盆帰省ラッシュ、夏の花火大会・・・。

 

この築地市場でのマグロ初競りの高価競り落としは、いつの間にか時節ネタになりました。

しかもこのネタは、あの木村社長の丸顔とほぼセットで記憶されています。大変なブランディング効果です。いつだったか、木村社長より高値で競り落とした会社がありましたが、その時の報道は確か「木村社長、二番目の高値で競り落とし」でした。主語が木村清社長になってる。☺️

 

さて、ここからが本論です。

この我々庶民が、パンピーが、WOW!となる高値の一尾7,420万円。普通なら「頭おかしいんじゃないんですか?」と言いたくなるような金額ですが、これ、元は取れてるんです。いや、元は取れてるどころじゃなく、ただで広告してるようなもんなんです。ホントに。

 

私算したのはこの2017年の初競りです。

一番大きく取り上げたのは初競りのあった1月5日のテレビ朝日系列のモーニング・バラエティーショーの「羽鳥慎一モーニングショー」です。最高の本間のマグロを競りおとすために心血を注ぐ、すしざんまい木村社長の競りにのぞむ舞台裏を描くという文脈で、カメラを入れての20分近くを費やす特集を組みました。

 

これの20分をTVスポット広告料金に換算してみました。

パブリシティは書かれ方、報道のされ方によってポジティブ、

かネガティブかの評価をする必要があります。

当該番組での20分間は全編好意的な扱われ方でしたので、

ポジ率100%としました。

 

15秒TVスポット広告の全国コストを20万円とします。

(全国をカバーして、1%の視聴率を取る際のコストです。10%の視聴率を取っているテレビドラマで15秒CMを一本打つなら、200万円ということになります。)

 

羽鳥慎一モーニングショーの平均視聴率を7%として、

7%  X 15秒スポット単価 20万円 = 140万円

20分は15秒X80本分なので、

140 X 80 = 11,200万円。 

 

この番組一本だけで、広告費換算1億1,200万円です。

既にマグロ落札代の7,200万円は元は取れた計算になります。

 

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某方に説明する際に私が作成したスライドです



さらに加味すべき点は、広告より番組で報道されていることを人ははるかに信用するという

ことです。なので、効果は広告費換算より上回るはずです。はるかに。

 

同日のテレビ朝日のニュース枠で、このネタは何度も取り上げられていたので、出目の総計は

かなりのものになったと推察します。更にテレ朝の枠だけにとどまらず、WEBニューズ、YouTubeなどでも格好のネタとして取り上げられています

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単に毎年恒例のパブネタの提供というレベルではなく、喜代村(すしざんまいの会社ですよ😁)はこのマグロ高価競り落としを、年初キャンペーンの核に置くマーケティング計画を綿密に立てています。間違いない。(😀。昔そんなことを言う一発芸人がいましたね。)

 

競り落としと同タイミングで、ホームページには店舗でマグロ祭りを開催するプロモーションが展開されています。そして、競り落とされた7,420万の大間の「神マグロ」の身は実店舗に数量限定で実際に供されるわけです。このマグロを口にした幸せな親子の映像が、また後日テレビニュースで流されるわけです。

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すしざんまいは、別にマグロ寿司だけを売っているわけではありません。

ただ、この「マグロの競り落としに心血注ぐ木村社長」が、「コスト度外視でも魚の質には妥協しない」すしざんまいという好意的なブランドイメージを顧客の脳内に作っているはずです。「マグロ高価競り落とし+木村社長の人の良さそうな丸顔」がすしざんまいの強いブランド・ソーマ*2になっているんですね

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これはホント良く仕組まれたブランド・パブリシティです。

木村清社長に私製の賞状を上げたい。いらないか・・・☺️

 

来年の豊洲市場でのマグロの初競りはどんな様子になるのでしょうか?

Covid19感染予防で、仲買人はフェイスガードをした上で、ソーシャル・ディスタンスを保って 競りに参加するんでしょうね。木村清社長も。メディアの扱いも「今年の初競りは、仲買人はフェイスガードで・・・云々」と新ネタ追加で盛り上げるんでしょう。

すしざんまいホームページのマグロ祭りの親子ショットは、フェイスガードをしないといけませんね。😁

 

なんか今晩はマグロが食べたくなってきました・・・

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

*1:2020年1月末時点の調べなので、現時点で増減はあるかと思います。

*2:グローバル調査マーケティング会社Milward BrownのErik du Plessis 会長が名付けた、顧客の脳の意識下に刻み込まれるブランドに対する好意的、または否定的な印象の刻印