必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の26 見返り美人というブランド・ソーマ

  ロングセラー商品のブランディング、という視点でネスレ日本ネスカフェゴールドブレンドの「違いのわかる男」シリーズとキンチョー(株式会社大日本除虫菊)の半世紀以上続いている面白CMシリーズを其の20と其の23の回で取り上げました。

  今回と次回は個人的に今でも心に残る別のロングランのブランディングTVCMシリーズをふたつご紹介したいと思います。

  ひとつは1965年から40年間の長きにわたり生産販売されたライオンのヘアケア商品、エメロン。シャンプーとリンスが主力のブランドです。

  大々的にTVCM広告がスタートしたのは1970年からで、このCMのフォーマットが当時斬新だった。

  街角で歩いている髪が綺麗な素人女性の後ろ姿をカメラが追い、インタビュアーが後ろから「すみません」と声をかけて、最後に振り向かせる、というフォーマットで全国各地をロケしました。今でこそ全国ご当地巡りというのはTVバラエティの定番フォーマットですが、当時はまだ珍しくて新鮮でした。

  「仙台の人」「鹿児島の人」「静岡の人」・・・とシリーズは続くわけです。ターゲット・ユーザーは女性なのに、若い男子の私はこのCMの新作を楽しみにしていました。☺️

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  心理学で「ツァイガルニック効果」というのがあって、事象が中途半端で終わると記憶に残りやすくなる、続きが気になる、というものです。

  これを利用したいわゆる「焦らし」の心理学。人は続きが気になるという心理を逆手にとったもの。よく使われるマーケティング の一手です。

  テレビドラマが良いところでCMが入り一旦途切れ、CM後に再び続くというやつはこれです。視聴者は続きが気になるからチャンネルは変えない。CMを観てるかどうかは別として。😁

  エメロンのCMはまさにツァイガルニック効果を使った名作です。最後に振り向くまで気になって仕方がない。まぁ男子の私はターゲット外ですが、「男性が気になる」美髪効果のある製品という強烈なインプリケーションが埋め込まれています。

  ハニーナイツというグループの唄うCMソングとなった曲は皮肉にも「ふりむかないで」。なかなかの演出です。

  このエメロン・シリーズを思い出したのは近年TikTokを見ていてなんです。TikTokには色んなパターンのお決まりのポージングがあるけど、その中のひとつで「こっちを見ろ、こっちを見て」というパターンがあるんですね。これなんですが。


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考えてみると、これは江戸時代からある「見返り美人」の鉄板の方程式ですよね。



  エメロンのCMにはブランディングの妙があると思うんですね。

  このインタビューの声がけに振り返ってくれた女性は、エメロンシャンプーの使用者ではありません。

  髪が長くて綺麗な女性に声をかけているのですが、理屈からいえば、エメロンシャンプー&リンスのおかげで髪が綺麗になっているわけじゃない。

  でもブランディングの鉄板の法則は、「ひとは理屈でモノを買わない。感情で買う。」であります。後ろを歩くひとを惹きつける綺麗な髪の毛とエメロンの名前の二つが好意的に心に刻まれれば、それでミッションコンプリートなんです。

  で、このエメロンのCMにおいてのブランド・ソーマは何であったか? 

  ブランド・ソーマ*1というのは、購買時点で人の行動を誘発する意識下に刻まれた、ブランドに対する好印象(または悪印象)の刻印のことです。


  エメロンのブランド・ソーマはこの「見返り美人」というCMフォーマット自体だと思います。これは強烈でした。街を歩いていて髪の長い女性の後ろ姿をみると、このCM思い出しましたから。ホントです。振り向かないかなぁ、とか思って。当時男子学生だった私はターゲットじゃありませんでしたけど。😀

  ブランド・ソーマってホント強力なブランディングの手段だと思います。意識下に打ち込むわけですから。それで購買時に記憶の底から蘇る。なんか催眠術の誘導みたいですね。効きますよね。ボクシングで言うと井上尚弥選手のボディブロー。😁

  其の(23)の回で書きましたが、50年以上も前から現在も続いているキンチョーのTVCMの場合も、あの面白コマーシャルのあり様自体がブランドソーマです。面白さへの執念は半端じゃありません。そして大概の企業が心血を注いで訴求する商品特性を自ら「つまらん」と言ってしまう脅威的「したたかさ」。あ、面白ければいいというつもりか!と怒らないで下さい。

  キンチョーの場合は、不殺生という仏教戒を冒すことになる「殺虫」に対する「贖罪」をあの面白CMが担っているんです。私見ですよ、これ。つくっている電通関西の制作チームが聞いたら「つまらん。おまえの話はつまらん!」と言うでしょう。99%。1%は無視ですね。殺虫。



  二つ紹介したい、って冒頭に言いました。あとひとつ。なんでしたっけ?
冗談です😅
 続きは次回…*2

*1:市場調査・マーケティング会社Milward Brown南アフリカの会長Erik du Plessisが提唱した考え

*2:続きが気になったら、これがツァガルニック効果です。ならなかったら・・・失敗ですね。😁