以前の項で、音やジングルでひとが好意的にブランドを想起する聴覚的ブランド・ソーマの好例をいくつかあげました。
ネスカフェ・ゴールドブレンドの違いがわかる男*1、ドイツの電動髭剃りBraun シェーバーのモーニング・レポート「トントン音」*2、そして最近の例でライザップのビフォー&アフターを誇張するあの特徴的なジングル音。
どれもロングランのTVCMです。反射的にブランドを想起するようになるにはやはりConsitency & Continuity、一貫性と継続性が肝心なんですね。しつこく、しつこく。
男女関係ではしつこいのはお互いトラブルの元になりますが、ブランディングでは顧客の意識下に爪痕を残すために同じことを何度も何度も繰り返す「しつこさ」が有効なんです。
昔、誰もが知っている欧州の某多国籍企業本社のコミュニケーション・ディレクターから何度もこう言われたことがあります。「ブランディング はConsistency & Continuityが大事なのだが、残念なことに広告代理店が最も早く同じことを続けることに飽きてしまい、新しい提案をしてくるんだよ。二番目は誰だか分かる? 俺たち広告主なんだよ。LOL」*3
このことを言われるのは決まって特定のタイミングでした。いつだか分かりますか?
新しい提案をプレゼンする時なんです。マックスに意気込んでいる時に冷や水をかけられたように縮み上がったもんです。😀
さて、今回は聴覚的なブランド・ソーマとしての「名曲」を使ったCMを三つご紹介します。
最初はチャイコフスキーの弦楽セレナードです。*4 YouTubeでチェックしてみて下さい。どうですか? 何かのCMで聞いた記憶がありませんか? 長期間にわたりこの曲をCMのBGMで使っっているので、聞き覚えがあると思います。
答えは人材派遣会社の最大手のスタッフサービスです。
ちなみにそのCMはこちら。
思い出しました? 「あるある」とはとても言えないシチュエーションCMですが、「分かる分かる」と、うなずきたくなりませんか? 採用側にも非採用側の人にも「分かる分かる」と響く名シリーズです。
スタッフサービスはリクルートホールディングの子会社で1981年の創業です。あの耳に残るチャイコフスキーのセレナードを使ったCMは1997年から始まりました。
派遣社員のニーズの増大に合わせて同社の売り上げは右肩上がりに伸びていきます。このCMシリーズは同社内でも評判が良かったのでしょう、40本以上のバリエーションが作られました。
私は人事担当ではありませんが、思わずクスリと笑わせてくれるこのCMの新作は楽しみでした。
YouTubeにはシリーズの後半編もあったので、添付しますね。私、このシリーズ大好きだったんです。
CMでは、スタッフサービスの何が優れているのかは一切触れていません。いわゆるU.S.P.*5はスルーしてます。「分かる、分かる」の共感ゲットに徹していますよね。
実はこのシリーズは以前ご紹介した面白広告の梁山泊の電通関西のプランナーの手によるものなんです。企業の製品・サービスを「そんなことCMで言っても誰も聞いてくれない」と一刀両断してしまうDNAが感じられますね、スタッフサービスのCMでも。
誇大広告は景表法*6で厳禁されている禁じ手ですが、広告表現の真髄のひとつは「誇張」です。一字違いですが、両者は全く違うものです。
誇張は現実と距離があればあるほど、ユニークで記憶に残るものになります。スタッフサービスの「オー人事、オー人事」のCMは見事に誇張の舞を見せてくれています。
ちなみにCMのラストで表示されるフリーコールの電話番号022−022が「オー人事、オー人事」とは無理くり過ぎると思うのは私だけですかね?
さて、二つ目の音楽は山下達郎の「クリスマス・イブ」です。40代後半世代の男女はこれを聞くと心揺さぶられるのではないでしょうか?
旧国鉄が分割民営化して1987年に誕生したJR東海が初めて作った企業広告が、若い男女の絆を東海道新幹線を介して描いた「シンデレラ・エクスプレス」です。それではどうぞ。☺️
それまでビジネスの移動手段としてしか見ていなかった東海道新幹線が、人と人の会いたい気持ちを繋ぐ手段でもあるんだなぁ(いいなぁ☺️)と思った記憶が鮮明です。
新幹線というハードをソフトに変えたこの名CMシリーズを作ったプランナーの電通の三浦武彦氏は、1989年から始まった、毎年最も活躍した広告プランナーを表彰するクリエイター・オブ・ザ・イヤーの第一回の受賞者になりました。
さて、最後に3本目をご紹介します。めちゃ古いですよー。50年近く前のものなので、画質の荒れようは凄いです。
ネスカフェ・エクセラです。1970年代に使われていたBGMの曲がロバータ・フラックのKilling Me Softly With His Song。ネスカフェ・エクセラのシリーズはヨーロッパの各地を舞台にしていて、日本の文化人を起用していたネスカフェ・ゴールドブレンドの「違いのわかる男」と対照をなしていました。この1972年のCMが響く人は既に70代~80代だと思います。
from Hansin1001 channel
黒い瓶のネスカフェ・エクセラを見ると、なぜかヨーロッパを思ってしまうのは思春期にこのCMに洗脳☺️されていたからだと思います。ブランド・ソーマって要は「洗脳」なんですね。
次回はその「洗脳」、ブランド・ソーマについて深掘りしてみたいと思います。