ここ数回、ブランドを好意的に想起する合図となるブランド・ソーマを脳の意識下に埋め込むブランディングの話をしてきました。
繰り返しになりますが、ネスカフェ・ゴールドブレンドの違いがわかる男シリーズの「ダバダ〜」スキャット、ライオンの往年の名シャンプー&リンス😁のエメロンの「見返り美人」フォーマット、Braunシェーバーのモーニング・レポート、RIZAPのビフォー&アフターのあの特徴的なジングル・・・等々です。
これほどブランド・ソーマに拘っているのは、ある2冊の著作を読んで、過去30年にわたりブランディング 道場で錚々たる外資系クライアントから投げ飛ばされて実地体験してきたことを振り返り、実に腹落ちしたからです。
その著作、一冊目は
○ 誘うブランド ダリル・ウェーバー著*1
もう一冊は
○ ブランドと脳のパズル エリック・デュ・プレシス著*2
原題はそれぞれ
○ Brand Seduction by Daryl Weber 2016
○ The Branded Mind by Erik du Pressis 2011
なんか原題の方がはるかにしっくりくるけど、それはさて置き・・・今回はここを深掘りしていきたいと思います。
「誘うブランド」の作者ダリル・ウェーバーは元コカコーラ社のクリエイティブ戦略担当だったブランディング戦略コンサルタントです。
多くの企業のブランド戦略に関わってきた同氏が行き着いた結論は、ブランドは顧客の脳の意識下に様々な連想の組み合わせで創造された「ファンタジー(幻想)」であり、これが人々の意思決定や行動に気づかないうちに大きな影響を及ぼす、と言うことです。
「目で見ているのではなく、脳が見ている」・・・このことを同氏はなかなかショッキングな事例で説明します。
曰く。私たちはかなりの精度ではっきりと、細部や豊かな色彩まで見ているように思われるが、実は目が「見ているもの」とは似ても似つかない。眼底の網膜に光が当たって生じる原画像はどうしようもなくひどい代物。像は逆さで、裏返しで、ぼやけて、平面的だ。しかし実際にそう見えることはない。違いを脳が埋めてくれるからだ。脳が先行経験知見に基づいて無意識的推論でギャップを埋める。
このことは実際に医学的に証明されている由。
「あばたもエクボ」って本当なんですね。好意を抱いている相手の像は脳が盛ってくれるのでしょうね。憎い相手だと、より悪人面に見える?☺️
無意識的推論で脳が実際にインプットされる情報のギャップを埋めることを脳科学者は「トップダウン」方式と呼ぶそうです。
先に情報が入る感覚器官(目)より、脳が上位に位置して、感覚情報を知覚情報に瞬時に変換するんですね。なんか企業文化にも言えそう。トップダウンが機能しないとダメ?😁
一言に要約すれば「見ているのは脳」で、人々が見ていると思っているもののほとんどは、実は脳が作り上げた解釈〜実のところは錯覚〜なのだ、とウェーバーは断じています。
だから氏は「ブランドは脳が作り上げたファンタジー」と言っているんですね。
ファンタジー、fantasyの定義をOxford Languagesで見ると・・・
a fanciful mental image, typically one on which a person often dwells and which reflects their conscious or unconscious wishes.
とあります。アンダーラインのところはまさに同意!です。意識的や無意識の願望を反映したメンタルな想像イメージ。これこそブランドの正体だと確信します。
願望、それは自分の「ありたき姿」です。メルセデス・ベンツのツェチェ会長はメルセデスのブランドは「成功者」であると言いました。この車に乗ることにより成功者である自分を楽しむ、またはそうならんとする自己確認をする・・・ということです。
もちろんメルセデス・ベンツは広告でそんなことは一言も言っていません。顧客や潜在顧客とのあらゆるコンタクトポイントで、「Being 成功者」の暗喩を脳に打ち込んでいるわけです。ディーラー店頭のrichな造作はそのひとつです。
ブランディングって、一言でもその「ありたき姿」を口に出すと色褪せてブランド(人の脳内にあるファンタジー)は霧散してしまうのだと思います。
前出のネスカフェ・ゴールドブレンドの「違いのわかる男」シリーズ、これは日本における稀有なロングラン・ブランド広告の代表的なもの、と書きました。
私見ですが、このCMによって作られた脳内ブランド、ありたき姿は「コーヒーの違いがわかる自分」ではありません。外資系マーケターがよく使う表現で言えば、
「One Notch Above」= 一段上の生活をしてる自分、がそれだったと確信します。
インスタントコーヒーは実際にはスーパーマーケットで主婦に買われているものです。
アメリカの成功に習い、日本でも発展した量販店(GMS)の端緒となったダイエー、イトーヨーカードーが急成長したのと歩を合わせてゴールドブレンドはシェアを拡大していきました。
日本家庭の朝食の食卓がご飯と味噌汁から、パンに目玉焼きとコーヒーに変わっていったことも大きな理由ですが、時代は高度成長期、人々は毎年ベアで上がっていく給料を貰って「一段上の生活」を目指していたんです。
そんな時代背景にあって、買い物をする主婦は「一段上の生活」をしているお父さん(=我が家)のブランドを買っていたんです。*3