必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の(32)ブランドは脳科学②

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我々の作っている広告は実際注目されているのだろうか?

 

前項で、「ブランド」は人々が脳内で想起しているファンタジーであるというブランディングコンサルタントのダリル・ウェーバー氏の説を紹介しました。

 

現実には「ブランディングへったくれは置いておいて、我が社が作っているCMが注目されているのか?認知度は?好意度は?・・・そっちの方が喫緊の課題だよ!」という企業のマーケティング部の方がほとんどでしょう。

 

広告代理店の担当営業氏が、広告が順調に認知されていることを示すどんなサポート資料を持ってきても、マーケティング部の貴方は、奥さんや同級生が「コマーシャル見たよ。いいね。」と聞かれなくても言い出すまでは、安心できないでしょう。「我々の作っている広告は実際注目されているのだろうか?」は貴方のあたまから決して離れない恐怖の自問です。

 

前出のダリル・ウェーバー氏はその著書「誘うブランド」で、こう言っています。ほとんどのマーケティング担当者にとって、注目は絶大の力を持つ王様である。そのため「気の散っている消費者」の心をこちらのメッセージに向けさせる必要があると「思い込んでいる」。

 

確かに人は学校で学ぶとき、集中して記憶するのに努力を払う。ノートに取り、復習する。少なくとも試験が終わるまでは。重要度が高く記憶しておきたいという意欲が非常に強い、この脳による記憶処理は脳科学で「高関与型処理」と呼ばれるものです。

 

ところがブランドについての学習はそうはいかない。重要度が低いからです。

 

其の22で、引用した山本良二・近畿大学教授の発言はまさに正鵠を射ています。

電通関西でキンチョーの面白CMを量産した制作チームにいた山本教授は、とにかく視聴者の関心を掴むために日々奮闘していたわけですが、彼曰く。「広告を見たいなんてひとは一人もいない。15秒コマーシャルなんてあっという間に終わってしまう。あなたが冷蔵庫から缶ビールを取り出してひと口飲む前に、僕たちがつくったCMは既に終わっているのです。当然のことです。CMなんか見るよりも美味しいビールが飲みたい。そう思うのが人間というものです。」

 

山本教授の言うとおり、マーケティングや広告の仕事に携わっている以外(つまり人口のほとんど)の普通の人々は、何気なくテレビを観ているときに広告にはそれほど注意を向けないものです。こうした表面的な注意しかむけていない状態での記憶処理は脳科学で「低関与型処理」と言われています。

 

「低関与型処理」では、ほとんど興味も示さず、関与もしないため、「注目」という王様の僕であるマーケターの努力は無駄になると考えるのが道理ですよね。犬に例えると怒る人がいるかもしれませんが、餌にも興味を示さない犬をこちらに振り向かせることがどれほど難しいことか、愛犬家ならわかります。

 

広告は残念ながら典型的な低関与処理型です。テレビ広告枠を莫大な予算を使って買っている広告主にしてみれば、当然「視聴者がこのテレビドラマを楽しめるのは、製作費も含めて広告主である我々が視聴者が広告を見るという前提のビジネス契約を放送局としているからだ。」と考えます。

 

その前提はある意味正しく、ある意味間違っています。視聴者は広告を見ます。でも熱心に見るわけではない。熱心に見るのは、広告関係者とテレビ関係者、何より広告主とその競合広告主です。あ、あと既にその商品やサービスの保有者ですね。車で言えば、購入選択が正しかったことの確認をするために、その車のオーナーが一番熱心に当該車の広告を見ると言われています。 

 

ウェーバーはこう要約しています。

マーケティング担当者は意識的なメッセージを作ることに力を注ぐが、実際は、ほとんどの広告が表面的に処理され、中途半端な注目しか得られない。つまり、意識的なメッセージが符号化されることは滅多になく、広告全体の主旨や雰囲気だけが記憶に残る。

 

実はアンダーラインの部分がとても大事なところです。ウェーバーは続けます。

○ 注意を向けていなくとも、脳は周囲の状況に目を光らせ学習している。

○ これを心理学者は「暗黙的学習」と呼ぶ。人が気付かないうちに脳が学習している。

○ 浅い処理(低関与型処理)による学習は潜在記憶を作り、それは数ヶ月間残る。

○ これは、自動的に素早く行われ、意識しようとしても意識できず、避けることができない=潜在意識に入り込んでくるのを止めることはできない。

 

広告というものに照らし合わせて、上述のことをよく考えると、こういうことになるのだと思います。

つまり、低関与型情報処理の広告では「意識的なメッセージ」は記憶されることはなく、全体的な雰囲気を無識に潜在記憶に刻むのが有効、ということです。

 

意識的に作り込まれたメッセージ、代表的なものは製品の差異をアピールする広告コピーがありますが、それはほとんど記憶されることがなく、むしろ全体的な雰囲気*1が潜在意識に刻まれる・・・U.S.P.を如何にメッセージに盛り込んで効果のある広告メッセージに搭載していくか、多くの時間を使っって討議してきた企業担当者と広告代理店にとっては、意気阻喪する話ですが、長年の経験から言ってもどうやらこれは事実です。

 

「全体的な雰囲気」ではあんまりです。今後の参考になりません。😀

詳しく突っ込むと、これはその商品・サービスに関係するコンタクト・ポイントの環境、文字の色や背景、音、視覚要素・・・などが、合理的で意識的なメッセージをさておき、複層的に無意識連想を脳内に形成し、記憶されるということなんですね。こうした無意識に記憶される連想の数々はメタ・コミュニケーションと呼ばれています。

 

ブランドは脳科学、更に続きます。

 

 

 

 

*1:これを外資系企業や広告会社はTone&Mannerと呼んでいます。