必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の(33) ブランディングは脳科学 ③

f:id:brandseven8:20201223221810j:plain前回に引き続きダリル・ウェーバーの「誘うブランド」で提唱されているブランディング脳科学との関係で考えられるべきであるという説を深掘りしていきたいと思います。

なぜ深掘りするのか? そんなに脳が好きなのか?😁

そうじゃないんです。

多くの企業の幹部からマーケターが「ブランド戦略」に真摯に取り組んでいますが、
根本的にブランドは、企業の意思通に形成されるものではなく、顧客の脳内の無意識の複層的な連想で形成される「幻想」である、と認識していないと、その真摯な努力が空振りに終わると思うからです。

それじゃあんまりです。

マーケティング用語の多くは軍事用語から来ています。
キャンペーンしかり、ストラテジーしかり、ターゲット・・・you name it、キリがありません。

戦争で例えるなら、マーケティングは戦い方の戦略・戦術で過去現状のデータ分析や敵味方双方の心理学的対応で、コントロールできるものですよね。マーケティングは心理学とよく言われる所以です。

もちろん状況は逐次変化するから、マーケティングも常にreviseされないとなりませんが、これは意識的に変更可能なものだからです。

ブランドが厄介なのは、一度顧客の脳内の「幻想」が出来上がると、変わらない、変えられないというところなんです。

ブランディングというのはそうした厄介なことを前提として、取り組まないといけないんですね。

でも企業経営陣やマーケターの皆さんは「我が社のブランドを強く、業界で比類なきNO:1のブランドにするぞ、全集中だ!」と、あたかもメーカー側の意思でこれがコントローラブル、なんとかなるものと考えているはずです。

勿論ブランディングは「ブランドの幻想を顧客脳内に作るべく仕掛ける打ち手」ですから、100%メーカー側の意思です。

でもブランドは「打ち込んだ」後に自走するもので、もう顧客脳内での連想形成に委ねるしかないんです。マーケティング のように逐次訂正はできない。


試験勉強などの能動的学習は脳的には高関与型処理で、意識的メッセージが記憶され、訂正も出来ますが、*1ブランドの記憶形成*2暗黙知的学習と言われる低関与型処理となります。



その辺のことをウェーバー氏はこう書いています。
「ブランド連想のほとんどは低関与型処理を通して作られる。マーケティング担当者はあまり深く考えていないようだが、私たちは常にブランドと出会い、そこかかわりは全て自動処理され、長い間記憶に残る。」

企業側の表層的意味的な訴求はともかく、全てが自動処理されて潜在記憶に構築されてしまうのは厄介なことですが、長い間記憶に残る、というのは素晴らしいことじゃないかと思うんですね。

企業は、中長期思考でビジネスに取り組む必要があると皆了解していますが、実態はどうかというと、やはり毎年、毎半期、毎四半期の利潤を叩き出すために短期的マーケティング諸策、つまり製品サービスのプロモーションに心血を注ぐわけです。そのために毎年多額の広告費を計上するし、結果が芳しくなければ即路線変更です。

こうした水面上の企業の奮闘努力とは別に、ブランドに関する暗黙知的潜在記憶は顧客の脳内に着々と形成されていってるんですね。しかも潜在記憶だけに、なかなか訂正修正されない類のものだというわけです。

逆に見れば、一度それが出来上がると「長持ちする」わけです。業績が悪く広告費が捻出で出来ない年があっても、このブランド幻想があれば、売上利潤に致命傷には全くならないはずです。

想像してみてください。メルセデス・ベンツが1年間広告を出さなかったら? Rolexが、Pradaが・・・そうなんです。それほど大きな影響はないはずです。もちろん新製品の発売には影響は出るでしょう。でもそれは短期のプロモーションです。

ブランドの資産価値、brand assetという考え方が米国を中心に
1980年代に出てきました。つまり顧客の脳内に出来上がった「ブランド幻想」を財務価値のある資産と見るんですね。だからブランディングは資産形成活動ということですよね。

広告費はバランスシート上でも、経営者意識的にも「経費」に分類されます。だから資産価値を生むブランディング を経費であるプロモーション広告費と同列に考えてはダメなんです。ブランディングは投資です。

さて、顧客への訴求は川上領域の資産形成たるブランディングと川下領域の販売促進プロモーションの組み合わせで考えられるべきです。それこそマーケターの仕事です。

なんですけど、「ブランディング後進国」の日本では、企業はプロモーションに会社をあげて心血を注いでいます。そしてブランディング費用が多分切り分けて計上できないでしょう。

実態は、企業マーケティング担当が「今回の広告に少しブランディングを意識してよね。そうね、割合的に10パーぐらいで。よろしく!」と広告代理店にブリーフする・・・というのが関の山じゃないでしょうか。

マーケターの方は異論反論あるでしょう。
「ブランドは無意識に形成されると言ったじゃないか! 無意識を操作なんて出来ないだろう。どうやってやるんだよ、ブランディング!」

そうですよね。


次回から「じゃ、どうすればいいんだよっ!」を深掘りしていきたいと思います。

*1:鎌倉幕府の始まりはイイクニ作ろう鎌倉幕府で1192年と私は語呂合わせで覚えましたが、これは実は1185年であったとのちに訂正されたそうです。そうならそうで、イイ屋号の鎌倉幕府と覚えなおせばいいんです。😁

*2:といってもこれは潜在記憶形成です