必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の34 ブランディングは脳科学 ④

マーケティング担当者にとっての王様は顧客の注目であるのは間違いないが、彼らが手をつくしてメッセージを作り意識的な注意を捉えようとすると、二つの問題が起きる、とダニエル・ウェーバー氏は著書「誘うブランド 」で書いています。

ひとつは、注意が肝心な訴求点ではなく関係のないものに向かってしまうこと、例えばCM中、出演タレントに注意が引き付けられてしまい、タレント以外は何のCMだったか思い出せないケース。これ実によくありますよね。というかそんなCMの方が多くないですか?経験的に。

二つ目は消費者が広告の主張訴求に注意を払うと、逆に粗探しや批判を始めることが往々にして起きること。フォーカス・グループ・インタビューではよくあることですね。本音ではなく、建前を話し出す。

これは逆に考えると、注意があまり向かなければ反論もせず、結果企業のメッセージを受け入れる可能性が高くなると言えるとウェーバー氏。そんな屁理屈を言うな、と言わないでください。これ経験則的に慧眼だと思います、

つまり、消費者がゆったりと構え、注意を集中していない時の方が、メッセージはすんなりと脳に入り込むということです。欧米のマーケターがよく言うsneak in (スニークイン)というやつです。

オーケー、では無意識下に訴える、スニークインするための方法論って何があるの? と言いたくなりますよね。

マーケティングブランディングの担当者が知りたいのは理屈じゃなくて、具体的方法論です。

ブランディングに関わる脳の働き方、無意識に記憶するプロセスについては深みにハマる隘路なので、いずれまた考えたいと思いますが、まずは顧客脳の意識下に爪痕を残すための方法論です。それがまず知りたい。

ウェーバー氏が「誘うブランド」で提示した二つのアプローチは、アリだと直感しました。

ひとつは彼がブランドについて語るときに使う「ブランド・ファンタジー」という考え方です。

ブランドというのは、人が脳で「ありたき自分の姿」を見ている「幻想」(ファンタジー)であり、それは意味的なメッセージ(広告コピー等)から作られるのではなく、商品・サービスとの全てのコンタクトポイントで接触経験する音、聴覚、視覚などから惹起される多層的な連想の総和である。これはメタコミュニケーションを言われるもの。

なるほどです。

マーケターは、どのような連想をつくり出すかを設計して、これを打ち込むべきで、これがブランディングである。この構築を氏は「ブランド・ファンタジー・モデル」を作る、と言っています。

ブランドは語るものではなく、感じるもの。
なんかスターウォーズの名言、Feel The Force、Use The Forceを思い出しますね。

Feel The Brand, Use The Brand 😀


どう感じてもらいたいか、がキーなんですね。

具体例として、ウェーバー氏はアップルを抜きんでた例としてあげています。

アップルは「創造性」(Creativity) というブランドコンセプトを打ち出したとし、製品のことを正面から語らなかったiPodの導入キャンペーンの成功を紹介しています。
f:id:brandseven8:20201231111249j:plainf:id:brandseven8:20201231111305j:plain


氏はアップルについては簡単に触れる程度で済ましていますが、ここを少し敷衍したいと思います。



アップルは画期的なPCのMacintoshを新発売した1984年のスーバーボールのコマーシャルで、1984という誰もが知るジョージ・オーウェルの書いた情報管理社会の恐怖を描く小説を題材にした
CMを放映し、全米を驚かせました。

CMの監督はこの2年前にあのブレイドランナーを作ったリドリー・スコットです。

そのCMがこれです。


youtu.be


このCMが放映されたのが1984年の1月22日のスーバーボールの行われた日。そして2日後の1月24日にMacintoshが新発売となります。

なんと創造性に富んだ仕掛けでしょうか。



さらにアップルは米国のCMキャンペーンで、ビジネスの世界ではディファクトスタンダードだったマイクロソフトWindowsを使ったコンピューターを”PC”と一括りにして、これを使う人を「頭の堅いダサいConventionalなビジネスマン」として描き、対照的にアップルのMacintoshを「創造的で、シンプルにして自由な人が使うデバイス」と描写しました。これって立派に比較広告です。Mac vs 他の全てのPC。すごい比較です。


youtu.be


そしてアップルはこの「ブランド・ファンタジー」を多くのコンタクトポイントでターゲットの無意識下に訴求しました。

白をベースにした、シンプルで美しいパッケージ。
直感的な操作。(やってみれば分かる)それまでのPCには付き物だった膨大なページ数になる取説をなくしたこと。クールなショップデザインと店員がいて、触って選べるアップル・ストア・・・全てが「創造的でシンプル、自由な生き方を好む貴方」というブランド・ファンタジーを累積的に築き上げていきます。

とても大事なことは「創造的で、シンプルにして自由」というブランド・コンセプトです。

「創造性」はPCの世界では今やアップルの専売特許的なものですが、当時当たり前だった「正確で、膨大なデータを処理する機械」というビジネスライクなコンピューターの世界にあって全く異なるアスペクトを持ち込んだんです。

ブランドは他とは違う世界を持っていなければ埋没します。

マーケティングではU.S.P.*1といって、Functional Benefit ( 機能的便益 )で自社製品を他と差別化することを多とするわけですが、川上領域になるブランディングでは違います。

そうした表層の意味的メッセージではなく、顧客のありたき姿(アップルMacintoshでは”創造的で自由な自分)をサポートし無意識下にアピールすることこそ重要です。

もちろんPCのシェア的に見ればWindowsをOSにしたPCが圧倒的に多いのですが、Macintosh対他の全てのPCという対立図を作ったことにより、アップルはMac独自の不可侵陣地を作り上げたのです。

アップルは見事に「創造的で自由」というブランド・ファンタジーを作り上げてみせました。一度出来上がったブランド・ファンタジーは持続し、自走します。世の中のクリエイターと言われる職業の人種のMac使用率はどれほど高いのでしょうか?私の知っているクリエイターの皆さんは自分用には100パーセントMacを使っています。私もです。*2

ブランド・ファンタジーを作ることに加えて、ウェーバー氏が提示した顧客の脳に爪痕を残すための2つ目の打ち手について次回は書いていきたいと思います。

*1:Unique Selling Proposition

*2:私はクリエイターではありませんが。😁