必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の36 ブランディングは脳科学 ⑥

 

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前稿では、直感(intuition、本能)は脳内に入ってくる刺激に相対して無意識下に複層的にストックされた感情が、同じ刺激に相応して発露するもので、私たちの意思決定に暗に、常時影響を与えているもの、という脳科学者ダマシオの説を紹介しました。

 

直感を誘発するきっかけとなるものをダマシオは「ソマティック・マーカー」と名付けました。ソマティックはギリシャ語で「肉体の」という意味だそうです。Mentalの反義語の由。

 

過去何回か触れてきましたが、本稿では、このソマティック・マーカーをマーケティングの領域に転化して当てはめて考察をした、Milward Brown *1南アフリカの代表で文章家でもあるエリック・デュ・プレシス(Erik du Plesis) のとなえた説を深掘りしたいと思います。

 

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プレシス氏は著書 The Branded Mind *2の一章を費やしてブランド・ソーマという考え方について考察しています。マーケターにとってはとても示唆に富む点が多いので、少し長くなりますが、以下概要を解説を付けて引用します。

ダマシオは私たちの意思決定の主要なインプットとなるソマティック・マーカー仮説をとなえた。

ブランドの決定とは、意思決定である。

ブランドの意思決定に帰するソマティック・マーカー、つまりブランド・ソーマをマーケターは管理する必要がある。

私たちが何かを見たり、聞いたり、考えたりするとき、その物自体が「頭に浮かぶ」だけでなく、「それについてどう思っているか、使ったらどう感じるか」という反応も起っている。

ブランド・ソーマは頭に浮かぶ解釈の「感情」部分だ。

私見ですが、最近の例で解釈を付け加えてみたいと思います。

皆さんもよくご存知のライザップのTVCMです。あの特徴的なジングル音楽とそれに合わせたビフォア&アフターのコマーシャルです。

 

以前の項で触れましたが、あのコミュニケーションの優れた点は「結果にコミット」して、バキバキに腹筋の割れたマッチョなメン&ウーマンにしますからという機能的便益=functional benefitではなく、別な隠れたメッセージ、西欧企業のマーケターが好んで言うところのhidden messageにあると思います。

 

それは「以前のシャープだった若き自分に回帰する」というプロミスです。苦労して人生の酸いも甘いも経験し、ある程度の金を持ち、そここそ成功している自分に欠けてしまったもの、それがシャープだった若き日の自分の姿のはずです。

 

あのビフォー&アフターを表す、一度聞いたら忘れられないジングル音楽とそれと対をなす

だらしなく緩み切ったからだとシャープに戻った姿。このセットが「ブランド・ソーマ」となって、私の無意識下に埋まっています。あのジングルを聞くと「Tシャツのお腹のあたりがだぶついていて、29インチのジーンズを余裕で履けていた頃の自分」を懐かしく、好感を伴って思い出します。アタマに浮かぶ解釈の「感情」部分です。脚に障害を持ってしまったので、トレーニングは出来ないんですが、もしそうでなかったら、安くはないですがやっていたと思います。ライザップ。

 

外部から特定の刺激を受けて、脳内でブランド・ソーマの感情が起動するとドーパミン・システムが活性化される。興奮物質、幸福ホルモンであるドーパミン

買い物行動、消費行動に伴い分泌されることが知られている。マーケターにとってこれはとても大事なポイント。

特定の機能があるからといって、そのブランドが自然に売れるということはない。ブランドを使ったときの「感じ方」について期待感を創り出さないとならない。なぜなら、ブランド購入の意思決定が行われるときには、ソーマが頭に浮かんでくることが特に重要になるからだ。マーケターが目指すべきなのは、そのブランドが購入される時にできる限りポジティブに受けとめられるようにブランド・ソーマを管理すること。そして消費者の期待を上回るような驚きをブランドに含めることだ。

 

なるほどです・・・って、「言うは易し」ですよ、プレシスさん。😀

だって、ソマティック・マーカーは意識的ではなく、無意識下に複層的に形成されるって

ダマシオさんも言ってたじゃないですか。それをポジティブなブランド・ソーマの仕込みをして管理せよとは、そんな無理難題を平気な顔してよく言いますね、(平気な顔で言ったかどうかは知りませんけど😁)

 

明白なのは・・・マーケター、マーケティング担当の方々はすごく大変ってことです。😁

 

ま、愚痴めいた話は別として。これを聞いていて(読んでいて)思った例があったんで、書きますね。

 

思ったのは、ダイソンです。

「特定の機能があったからといって、そのブランドが自然に売れることはない。」とプレシスは書きました。うーん、確かにそうですが。ノーブランド品でも、機能があってそこそこ安ければ売れるかもしれないです。ただし、「売れ続ける」ことは難しいでしょう。ブランドのチカラ、とは端的に言うと「値引きせずに」「広告をしなくとも」売れ続けるチカラだからです。

 

ちなみにダイソンは掃除機の競合世界に「デザイン性」というアスペクトを持ち込みました。

同時に類稀なる「吸引力」という機能を訴求して。この二つをアイコン化しました。

デザインの優越性は説明する類のものではないのですが、ダイソンのブルー、レッド、シルバーという他とは全く違うカラーリングは強烈に印象に残り見事です。

 

そして吸引力。掃除機の本来求められる基本機能です。ダイソンはこの自社で発明した機能をサイクロン式(サイクロン=熱帯性低気圧)といういかにもなネーミングと、吸い込む部分(なんというんですかね)をシースルーにしてしまうという大胆な商品デザインでアイコン化しました。

もはやこの掃除機はデザイン性の高いマシーンです。

 

この二つのファクターがダイソンの掃除機のブランド・ソーマになっていると、私は見立てます。そしてこのブランド・ソーマが喚起する「感情」は何か?

 

ダイソンの人がどう考えているかは知る由もありません。これはあくまでも私の個人的意見です。

喚起される「感情」は「スーッとする」感じだと思います。

床にある細かい粉をどんどん吸い取っていくシーンは、どこの企業もやっているU.S.P.のアプローチですよね。まぁあんな風に家にゴミは落ちていませんけど。☺️

 

ダイソンの掃除機がサイクロン方式でガンガンとゴミを吸い取っていく、この画像を見るとすーっとしませんか? 昼間会社で嫌なことがあった女性が家に帰って、ダイソンの掃除機でガーっと・・・上司から営業成績の悪さをチクチクと責められた男性が、週末にリビングでダイソンでガーっと。スーッとする。☺️ これは私の妄想ですかね。でもブランドは「幻想」であると、ダリル・ウェーバーは言っていたじゃないですか。😁

 

いずれにせよ、スッとしますよね、きっと。人って、焚き火が好きです。理由もなく。バーベキューするわけでもなく、キャンプでただただ焚火をする。あれ、スッとするからだと思うんです。スッとすることが好きって人間の本能なんじゃないでしょうか。

 

ちょっと冗談のようになってしまいましたが、ダイソンの掃除機がスッとするという感情を喚起するんじゃないかと書いたのは訳があります。

次回はその説明にあたり、プレシスが展開した「ドーパミンな瞬間」について書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:多国籍マーケティング調査会社

*2:邦題ブランドと脳のパズル。☺️