必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の38 ブランディングは脳科学 ⑧

  ブランド・ソーマの話、本稿でひとまず区切りを付けたいと思います。もう8稿目ですからね。早く結論を言え!とイラつくマーケターの顔が浮かびます。

  結論から言うと、最強のブランド・ソーマってエリック・デュ・プレシシスの表現する「ドーパミンな瞬間」をつくるソーマだと思うんです。

  ドーパミンを分泌させるブランド・ソーマというのは、人の本能的欲求を刺激するものだと確信します。四の五の言っても人間、本能には逆らえませんから。

  人間の本能的欲求について、最も広く知られているのはアメリカの心理学者エイブラハム・マズローのとなえた「欲求5段階説」ではないでしょうか。
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  一番底辺の広い「生理的欲求」から始まって、上に向かって「安全欲求」、「社会的欲求」、「尊厳欲求」、そして最上位にある「自己実現欲求」と昇華していく正三角形図形は、マーケターの人なら一度は観たことがあるのではないでしょうか。

  知っている人には繰り返しになりますが、おさらいをしときますね。

第一階層の「生理的欲求」
人間という動物としての基本的欲求である「食べたい、飲みたい、寝たい」などがこれに当たります。排泄したいも入ると思いますね。

第二階層の「安全欲求」
危機回避、安全な生活がしたい、などです。まず生きること、その次は安心に生き延びることと理解すればいいですかね。

第三階層の「社会的欲求」
集団に属したり、仲間を求める欲求です。組織や家族、地域コミュニティーなど、所謂社会集団に属して安心を求めることです。所属と愛の欲求とも呼ばれます。


第四階層の「承認欲求」
承認欲求、尊厳欲求とも言われています。コミュニティに属するものとして他の人から認められたい、尊敬されたい、ということですね。
SNSでの「いいね」がこれに当たるのだと思います。


そして最上位の
第五層の「自己実現欲求」
他者からの承認が得られると、次に向かうのは人がどう見るかより、自分が納得できる、いわゆる「ありたき姿」になりたいという、より高度な自己実現なんですね。

  マーケティングの泰斗フィリップ・コトラーは最近、自己実現欲求を超えて人は「利他的行動」を行う次元の欲求を持ち始めていると語っています。

  さて、マズローの欲求5段階説、納得はできます。できますが、なんかいまいち「そうそう、それそれ」感が足りないなぁ、と。

  現代人だと、第三層以上、特に第四層にほとんど欲求が集中してしまうような気がします。

  前稿で書いたショッピング・チャンネルで買いもしないのに観ているだけでドーパミンが出て多幸感に包まれるのは、他者と比較しているわけじゃなく、「この商品を手にして幸せな自分」を想像するわけで、これはマズロー的に自己実現ですよね。

  若き頃のシュッとしたカラダを手に入れた自分を想像して幸せになれるライザップ。
みんな第四層じゃないの。😁

  もう少しこの本能からくる消費者の動機、Consumer Motivationを研究し、人間の欲求をリスト化したのがやはりアメリカの心理学者ヘンリー・マレー氏です。マレーの欲求リストには39種類の欲求があります。人間ってよく深いんですね。😁

  マレーは人間の欲求を大きく二つに分類しています。


○ 臓器発生的欲求 人間の臓器と直接関連する第一次的欲求
○ 心理発生的欲求 人間の臓器と直接関連しない第二次的欲求

  マレーがこのリストを提唱したのは1938年のことですが、80年後の今もこれ超validだと思います。


  臓器発生的欲求は文字通りで、吸気・飲水・食物・排尿排便・・・等々12種類があげられていますが、マーケター的にはAh, soでいいかと。

  心理発生的欲求こそがマーケターが注目すべきところです。

  28もあるんです。とりあえず羅列します。

物質的欲求

1) 獲得欲求 色々なものを手に入れたい
2) 保存欲求 収集
3) 秩序欲求 整理整頓
4) 保持欲求 お金、モノを手放したくない
5) 構成欲求 組み立てたい、築き上げたい

野心・向上心欲求

6) 優越欲求 他人より優れていたい、社会的地位を高めたい
7) 達成欲求 困難を乗り越えて成功したい
8) 承認欲求 認められたい、尊敬されたい
9) 顕示欲求 他人の注意を引きたい、人を楽しませたい

自己防衛・保身欲求

10) 不可侵欲求 自尊心を傷つけられたくない 批判は避けたい
11) 屈辱回避欲求 恥をかきたくない
12) 防衛欲求 非難されたくない、言い訳してでも自分を正当化したい
13) 中和欲求 失敗を取り戻したい、弱さを克服したい

支配・権力に関する欲求

14) 支配欲求 他人をコントロールしたい、影響を与えたい
15) 服従欲求 優秀な人に従いたい、協力したい、仕えたい
16) 模擬欲求 他人を真似たい、同意・同化したい
17) 自立欲求 他人の支配影響に抵抗したい、独立したい
18) 対立欲求 他人と違った行動を取りたい、ユニークな存在でいたい
19) 攻撃欲求 他人を攻撃して奪いたい、軽視・意地悪したい
20) 屈従欲求 他人に降伏したい、謝罪したい、痛み不幸を楽しみたい

禁止に関する欲求
21) 非難回避欲求 法律ルールに従いたい、処罰追放を避けたい

愛情に関する欲求 
22) 親和欲求 他人と交流したい、集団に加わり仲良くしたい
23) 排除欲求 他人を差別排除したい、無視したい
24) 養護欲求 困っている人を助けたい、保護したい
25) 救護欲求 愛されたい、許されたい、慰められたい

遊戯に関する欲求
26) 遊戯欲求 リラックスしたい、遊びで楽しみたい

情報に関する欲求
27) 認知欲求 知識を得たい、理解したい、好奇心を満足させたい
28) 証明欲求 情報を提供したい、他人を教育したい

  いやぁ、よくこれほど細密にリストアップしましたね。

  人間てなんて欲深い動物なのだろうかと感心します。

  しかもほとんどのリスト項目、考えてみると身に覚えがあります。
  
  妻のショッピング・チャンネルでの多幸感、これはもうリストのいの一番の1)獲得欲求ですね。間違いない!😁


  これらの本能的欲求に結びついたブランド・コンセプトは強い欲求なんだと思います。本能には逆らえない。😁

  でも、考えてみると、これらの欲求リストの項目からはブランド・コンセプトは出てこないと思います。
   
  このリストをいくら見つめていても、ライザップのあの「若き日のシャープな自分を取り戻す」というコンセプトを捻り出すことは叶わないでしょう。

  逆で、「若き日のシャープな自分を取り戻す」をこの28のリストに当てはめてみて該当する『本能から来る欲求』があるかどうかチェックするのが良いのではないかと思います。

  私はライザップは以下のに該当すると見立てます。

  Primaryには 7)の達成欲求。ライザップのトレーニングとダイエットはなかなかに厳しいと認知されています。これをやり遂げることは達成欲求を満たしてくれます。

  Secondaryに 15) 服従欲求です。
ライザップのトレーナーは厳しい要求をトレーニングにせよ、食事指導にせよ、突きつけるようですね。人にはそうした厳しい指導に従いたいという服従欲求があるそうで、これにもミートしています。

  二つの本能的欲求を刺激するわけだから、ライザップのブランド・コンセプトは強いはずです。

 「それは今まで考えたことがなかった!」という意外な欲求がありました。整理整頓を欲する「秩序欲求」です。なるほど。日本人恒例の年末の大掃除はそうですかね。これを書いたヘンリー・マレー氏はアメリカ人ですから、大掃除じゃ締まりませんね。

  「片付けのカリスマ」こんまりこと、近藤麻理恵さんのこんまりメソッドには世界中が熱狂したわけですから、秩序欲求はやはり普遍的なものと言えましょう。


  さて、欲求リスト、これに当てはまらないとブランディングのコンセプトにならないというつもりはありません。当てはまるモノはより強いコンセプトでありましょう、ということです。本能的欲求を満たすわけですから。

  このヘンリー・マレーの「欲求リスト」と突き合わせることは、自分、自社で考えたブランド・コンセプトの強さを検証するに有効なのではないかと思います。


  さて、ブランド・ソーマについての論は本稿で一区切りとします。

  「で、ブランド・コンセプトはどーやってつくるんだよ!」と言うマーケターの貴方、それはまた別な話で、いずれシリーズだてして書くつもりです。長くなります、この話も。😀