必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の39 swatchのブランディング

 

 

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皆さん、腕時計のswatchはもちろんご存知ですよね。

 

 swatchってある英語の略で出来たブランドネームなんですけど、何だか知ってますか?

 

 swiss watch。単純明快。私も最初そう思いました。

 

 実はsecond watchの略なんです。単純明快なのは同じ。😁

 

 このsecond watchという言葉には、swatchマーケティング戦略が透けて見えます。

 

 swatchは1983年にスイスでニコラス・G・ハイエックが創業した会社です。

 

 スイスは錚々たる高級時計ブランドの生誕の地ですよね。私の好きなブランド*1と創業年は以下の通りです。

 

オメガ・・・1848年

ブレゲ・・・1775年

ロンジン・・・1832年

ジャガー・ルクルト・・・1833年

IWC・・・1868年

ロレックス・・・1905年

 

 実はオメガとブレゲは100年以上も後に創業された新興のswatchM&Aされて今やswatchグループなんですね。

 

 ちなみにブラゲが創業された1775年は、アメリカが英国からの独立宣言をした1776年の一年前です。

 この100年近くの後になる、IWCの創業された1868年って、日本では明治元年なんです!

 

 超老舗の居並ぶスイスの時計業界では比較的新手😁になるロレックスの創業は1905年、それでも日本では明治38年、なんと日本国海軍が日露戦争でロシアのバルチック艦隊を撃破した日本海海戦のあった年です。

 

 日本も負けていません。日本が誇る時計ブランドSEIKO、服部金次郎氏が服部時計店を創業したのは1881年明治14年です。板垣退助自由党を結成した年です。ロレックスより四半世紀も早い。どうだっ!😀

 

 時代はさらに下って1969年、SEIKOが世界に先駆けて実用化した水晶発信装置による腕時計*2、クォーツ時計は世界を驚かせ、それまで比類なき精緻さで時計と言えば機械式スイス時計だった常識を覆したんですね。

 

 1970年代には日本製クォーツ時計は世界市場を席巻して、スイスを筆頭にする欧米式機械腕時計は売り上げ爆下げで大打撃を受けました。

 

 そりゃそうです。

 機械式の誤差は日差−10秒から+20秒が許容範囲と言われているのに、クォーツ発信時計は月差±15秒以内がほとんどの由。

 

 勝負になりません。

 そもそも機械式が日差を基準にしているのに、クォーツ式は月差ですから。

 

 

 さてそんなクォーツにやられっぱなしの1970年代が過ぎ、1980年代になってswatchが登場します。全く異なるコンセプトを引っ提げて。

 

 世界に冠たるスイス時計の中にあって、スイスの歴史家に言わせればきっと「つい最近出てきた」新参者のswatchのそのブランドの在り方は異彩を放っています。

 

機械からファッションへ。

 

 それまで腕時計の優劣というのは其の機械としての精緻さが要点でした。もちろん有名ブランドはデザイン性も高く、お洒落のアイテムと言えるのですが、なんせお高いものなので、一度買えば長持ちするように大事に使い、何本も持つようなものではありません。

 

 裕福な人には何本も高級時計を所有するコレクターがいますが、一般的にはやはり一本の腕時計を長く愛着を持って使い続けるのが普通でしょう。

 

 swatchは全く違う方向を志向しました。

曰くswatchはファッション・アイテム。

 

 欧米のブランドはこうと決めたら徹底します。ブランドはConsistensy & Continuityという信条を頑固に遵奉します。

 

 swatchは登場するとアパレル・ファッションであるが如く、春夏と秋冬新作コレクションを年2回新発売。まさにアパレルコレクションです。

 

 ファンを喜ばせる限定モデルも多数出していて、クリスマスモデルやジェームスボンドの007コラボモデルもあるんです。

 

 ポジショニングは名前に隠された言葉の通りSecond Watch。ナンバー1の時計はIWC、Rolex、ないしはGrand Seikoかもしれないけど、それはビジネスパーソンにとってのスーツ、それとは別にリラックスしてお洒落をするような気分で時計も着替えましょう、というファッション志向が現代の顧客をガッチリと掴んだわけです。

 

swatchのホームページ(swatch Japan)を覗いてみました。

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な、なんてお洒落なんだ!

 いきなりValentine's Day コレクションとChinese New Yearで画面は真っ赤。

新作コレクションからスペシャルモデル、定番モデル・・・とキリがないです。

 ホームページを回遊してると1時間くらい平気で過ぎちゃいますね。

 

 

 

 冒頭の写真は東京オリンピック記念デザインswatchで1964年バージョンと 2020年バージョンです。1964年にswatchは影も形もありませんから、もちろんこれはずっと後になって、オリンピック開催都市をデザインモチーフのシリーズが発売されたときのものです。

 

 1964年東京オリンピックモデルは、2000年前後だったと思いますが、仕事でスイスのローザンヌを訪れたときにIOC*3近くにあったswatchショップで買い求めたものです。

 

 直近で購入した2020年東京オリンピック記念モデルは、残念ながらオリンピックがコロナ禍で2021年に延期になりましたが、2021年に開催したとしても東京オリンピック2020と呼称するようなので、まだこのモデルはイキですね。なくなると、それこそ「幻の記念モデル」となるわけです。希少価値が出る?☺️

 

 なんやかんや言って、私はswatchを過去10本近く買ったと思います。1万円前後の絶妙に買いやすいお値段設定なので、つい手が出てしまうんですね。ムーブメントはクォーツですから、正確性に問題はありませんし。

 

 このアパレル・ファッションブランドのようなコレクションの多さと、買いやすい値段、というSecond Watchとしてのmaxな魅力は、カシオのG-Shockがまさに今ポジショニングしているところではないかなと思います。

 

 女性をターゲットにつくられたG-Shock Miniとやはり女性向けに企画された超薄型のswatchのSkinシリーズをセカンドウォッチとして私持ってました。

 

 ゴルフを頻繁にやっていたときに重宝してたんです、どちらとも。swatch skinはしているのを忘れてしまうほど軽く薄いし、G-Shockはスイングしてすっぽ抜けて飛んで行ってたとしても壊れないし。そんなわけないか。😁

 

 真面目な話、カジュアルでお洒落だし、普段使い、まさにセカンドウォッチとして愛用していたんです。

 

 ところで「買いたい気持ち」を引き出すドーパミンを分泌させる、swatchというブランドが刺激する人の本能ってなんなんでしょうか?

 

 前項で紹介したアメリカの心理学者ヘンリー・マレーのとなえた本能的な人間欲求説のうち、物質的欲求に「保存欲求」、別な言葉で収集欲求というものがあります。

 

 swatchG-Shockはこの収集欲求という本能を刺激するのだと確信します。ファッショナブルといっても、アパレルブランドとはここが決定的に違うところでしょう。

 

 シャネル、プラダなどのハイファッション・ブランドはマレーの言うところの「顕示欲求」=

他人の注意を引きたい、と「優越欲求』=他人より優れていたい、社会的地位を高めたい、を刺激しているはずです。

 

  収集欲求・・・強い本能っぽいですね。切手の収集家、記念コインの収集家、昆虫標本収集家・・・なんでそんなにお金を使えるんだ!と言うほど病膏肓に入ったピーポーがたくさんいますよね、きっと。😂

 

 時計は刻をきざむ正確性が求められた時代から、刻の流れを味わう時代に変わってきたと感じます。クォーツ式のあのカチッ、カチッと動く秒針とは違い、職人技でつくられたゼンマイのチカラで連続的にスムーズに動いていく秒針は、人生は連続していくものと告げてくれているようで気分が良くなります。

 

 一本50万円以上はする機械式のGrand Seikoの販売が好調ですが、スイス式の歴史ある高級機械式やGrand Seikoは、同じ時計でもswatchとは違って、マレーもマズローも共通してとなえている「承認欲求」という本能を刺激しているのかもしれません。

 「Grand Seiko」が似合う大人になったんだね、と人に思われたい、自分を褒めてあげたい・・・そんな承認欲求な気持ちが沸き起こる。「ドーパミンな瞬間」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:所有しているということではありません。あくまでも好きなという意味です。みて分かるように富裕層が買うような超高級時計は含まれていません。逆立ちすればなんとか・・・という範囲です。超高級富裕層御用達ブランドは土地勘がありません。😁

*2:SEIKOアストロン

*3:International Olympic Committee