必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の46 ブランドを語った偉人たち~梶 祐輔 ①~

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広告の迷走 梶 祐輔 著 (宣伝会議 2004発売)

  僕は広告は、その会社がどういう「熱い思い」をこめて会社をやっているのか、どういう「熱い想い」をこめて商品を作っているのかを、本心で語るべきだと思っている。

 
 「熱い想い」は、イメージではない。それは企業の経営哲学、モノづくりの哲学なのだ。

  
  その「熱い想い」は、あくまで一方的に企業サイドのものであるけれど、それを採るか否かの判断は消費者自身が下すだろう。
  
  
  
  いまの消費者は、自分の価値観で共感できる主張とそうでないものを選び分ける。

  
  
  やや図式的に言えば、「熱い想い」はお客の心の中に入って、お客の心と共振しながら、つながるのである。

  


  今回はいきなり引用から入りましたが、この文章は、1959年の日本デザインセンター*1の設立に参加したコピーライター、クリエイティブディレクターの梶 祐輔氏が著者「広告の迷走」に書いた一文です。

  以前のエッセイでも紹介しましたが、この本は私のバイブル的な本の一冊でして、折に触れて読み返すブランディングのコンパスとなる名著なんです。この一文にはブランディングのエッセンスが含蓄されています。氏がこの本を上梓した2001年は、ブランド論的なものが語られ始めた、ブランド論創世期です。

  氏が記した「熱い想い」という言葉をブランディングという言葉に置き換えてみます。

  

  僕は広告は、その会社がどういう「ブランディング」をこめて商品をつくっているのかを、本心で語るべきだと思っている。
ブランディング」はイメージではない。それは企業の経営哲学、モノづくりの哲学なのだ。

  その「ブランディング」は、あくまでも一方的に企業サイドのものであるけれど、それを採るか否かの判断は消費者自身が下すだろう。
いまの消費者は、自分の価値観で共感できる主張とそうでないものを選び分ける。

  やや図式的に言えば、「ブランディング」はお客に心の中に入って、お客の心と共振しながら、つながるのである。


  

  どうでしょう? 現代語られているブランディングの要点を氏は見事に言い当てています。


  2001年当時、ブランディングはブランドの持つ資産価値、つまりbrand assetの観点から語られることがほとんどでした。

  
  アメリカの4A agencyの象徴的な大手広告代理店であるヤング・アンド・ルビカムが開発したBrand Asset Valuatorが持て囃されたのもこの頃です。
  
  
  ブランディングが、消費者の購入を持続的なものにするマーケティングの視点を飛び越えて、資産価値つまり企業の財務的な視点になってしまったのは残念なことでした。

  特にこういう視点で考えてしまう傾向は日本で強くなってしまったように思います。だからこそ、日本ではブランディングは企業ブランドの観点で語られることが多いのでしょう。

  欧米では商品・サービスのブランディングと企業ブランディングはすべからく一致しています。

  前項でご紹介した藤岡和賀夫さん、今回ご紹介している梶祐輔さん。おふたりに共通しているのは、企業側の都合でひとの気持ちは動かせない、ひとの共感を得ることが何より大事なのである、と語っていることです。

  ブランディング、ブランドの効果を意識していたというわけでは全くないと思いますが、期せずして氏たちの目指したものがブランディングそのものであったと思います。

  最近、特に欧米ではネスレなどのグローバル企業が掲げているCSV経営 (Creating Shared Value)の根っこはこの「共感を得ること」に繋がります。小難しくなっちゃうんですが、CSVは「共有価値の創造」ってことです。共有価値って、平たくいえば「価値観同じだよねぇ、僕らは」ってことです。ブランディングの基礎です。

  梶さんは同書でこんなことも言ってます。

 

企業は自分たちの考えることに、心から深く同意してくれる消費者だけを大事にすればいいのだ。

  
  企業の口からは決してこんなこと言えませんよね。☺️
  でも、これ企業側の本音ですよね。

  
  ちなみにマーケティングの泰斗、コトラー*2は著書”コトラーマーケティング3.0”*3マーケティングは消費者志向のマーケティング2.0から価値主導のマーケティング3.0に向かっていく...としてこんな主張をしています。

 

  マーケティング3.0では...消費者は混乱に満ちた世界において、自分たちの一番深いところにある欲求、社会的・経済的・環境的公正さに対する欲求に、ミッションやビジョンや価値で対応しようとしている企業を探している。選択する製品やサービスに、機能的・感情的充足でなく精神の充足を求めている。

  
  これってまさにShared Valueの考え方ですよね。
  
  価値観は人によって違います。誰とも等しく「共有価値の創造」は出来ません。

  共有価値の創造・・・このことが「広告」*4の真髄だと直感していた梶さんは、商品名を連呼する、たった15秒のTVCMにメッセージを詰め込む当時の状況に嘆き、憤怒を著書に認めました。それは次回に。
  

*1:1956年東京オリンピックのメインビジュアルを制作した亀倉雄策を始め多くの傑出したデザイナーやディレクターが在籍した広告制作会社。

*2:近代マーケティングの第一人者と認められるアメリカの経営学者。

*3:2010年 朝日新聞出版

*4:梶さんの言う”広告”は”ブランディング”のことであったと確信します。