><梶 祐輔 氏は「広告の迷走」の原因を作ったのは、極めて日本的な15秒TVコマーシャルという
広告表現形式であったと断言しています。
梶氏の辛口批評を要約引用します。
テレビコマーシャルは広告主数社が、或る番組を買切り、その中にCMを入れるのがオーソドックスな方法。
それ以外に番組から番組の間の空き時間帯を利用して放送される時間帯を利用するスポットCMという方法がある。
このスポットCMは15秒が主流*1である。
15秒という時間はあまりに短い。この時間に起承転結を展開できるわけがない。
この極端に短い時間を克服し、必ずヒットする発想が必要となった。
スポットCMは一本だけ放映してもインパクトが薄い。一週間に何十本、何百本と大量にオンエアする「集中スポット」という打ち方が出来て、ヒットの法則となった。
何百回という反復視聴に耐えられる表現が求められることになる。
発想を萎縮させる短時間という制約を受けて、この国のテレビコマーシャルは世界でも例のない独自の発展をすることになる・・・
高度成長を邁進する「ものづくり」日本では、企業の開発力が進化して製品の品質に大きな差がなくなり差別化が難しくなってきました。
大量に市場投入される数多の新製品を、短期間に短い尺のTVCMを大量投下する即効性のあるマーケティングが
必要となりました。
製品に優位性のある大きな差(小さな差を見出して、それに意味を深化拡大していくというやり口は日本では無視されました。このことについては改めて深掘ります) はないと知っている企業は、TVCMが短期間で視聴者の記憶に残る「ヒット」することを求めたんですね。
その為に企業と広告代理店はタッグを組んで必勝法 (それで必勝だったか、極めて疑問ですが)を編み出しました。それは有名タレントをCMに起用することです。
その辺りを氏は以下のようにバッサリと断じています。
ヒットを狙う為に、日本のCMは有名タレントを使うことに「逃げた」。
99%が有名タレントを使ったTVCMだそうだが、その理由はいくつもあげられる。
1) 日本人の無類の有名タレント好き・・・CMの洪水にうんざりしている視聴者への拒否反応を減じるドアオープナー機能
2) 「商品に差はない。だから広告で差をつけよう。」方式でのタレントというレッテル効果
3) 友達や家族の中での話題喚起という話題増殖性 (バズりやすいということですね、いま的に言うと)
4) 流通チャネルに対しての営業サポート
5) 社内での意見をまとめやすくする
・・・
もういいだろう。とにかく有名タレントを使ったCMは良いことづくめ、だから広告代理店はタレントCMを売り込んで
きたのだし、広告主は当然のこととして受け入れてきた・・・日本のコマーシャルに詳しい外国人クリエイターの友人は我が国のTVCMの構造を「タレント、そしてトツゼン、ショウヒン」
と言って冷やかす・・・
タレントCMは、この国の広告主にとって、ほんとうに利益になっただろうか。それは日本の広告に何かを与えただろうか。
さて、梶氏の叱責文から少し離れて、氏から諸悪の根源呼ばわりされていた15秒TVCMについて少し深掘りたいと思います。
海外生活をしたことのある人ならわかるはずだけど、TVCMというのは30秒が普通なんです。
日本だって、TV番組の提供スポンサーが打つTVCMは30秒なんです。これを「業界」はタイムと呼びます。
一方で15秒TVCMはスポットと呼ばれます。Spotという英語は点、斑点、少量を意味します。
番組の放送の形式は、キー局と呼ばれるメインとなる放送局 (通常は東京局ですが)が制作したものを全国の系列地方局に配信して放映します。番組内のスポンサーCMはこの系列地方局に同時に一気通貫で放映されます。
例えば、TBSの場合、全国にJNNネットワークと呼ばれる系列28社があります。TBSがオンエアしたスポンサーCMをHBC北海道放送でも福岡のRKB毎日放送でも同時に放映しています。
そしてスポットCMは基本的にステーションブレイクと呼ばれる番組と番組の間の時間に放映されるものなんです*2。
ステーションブレイク(業界ではステブレと呼びます)、この時間は切り替えのタイミングであり、地方局独自編集の番組はこのステブレを挟んで放映されます。したがって、このステブレで放映されるスポットCMは地方局毎に放映する性質のものなんです。
番組内CMではないので、本数も時期もavailableであれば自在に調整ができます。TBSにしてもステブレで放映するスポットCMは東京単、東京ローカルです。
そういうわけで、15秒TVCMは短期決戦のプロモーション効果を狙うには好都合なんです。
テレビ番組の提供スポンサーは最低でも、業界用語で言う「ワンクール」、3か月をコミットする事が条件です。
企業の新製品導入キャンペーンのTVCMは、一週間から三週間程度のものが多く、「集中スポット」を投下しますので、必要に応じて地方局のステブレのスポットの購買を積み上げていくのです。
多額の予算を投下して、短期的に成果を上げる事を必要としているわけですから、企業側としては15秒に詰め込めるだけのメッセージを詰め込みます。それが人情です。社情というべきですかね。☺️わかります。
広告製作側の本音は「そんなに詰め込んでも、覚えてもらえませんよ。」なんですけど、広告代理店は企業の意思を忖度することマックスですから、そんなことははっきり言いません。
ご存命なら梶さんに大叱責をされそうですが、
それが実態です。
続きは次回に。