必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の52 ブランドを語った偉人たち〜梶 祐輔 ⑦〜

f:id:brandseven8:20210507161739j:plain中長期的な視点でのブランディングをするに障壁となる、日本の組織的な問題について、梶氏は伊藤邦雄・一橋大学名誉教授の名著「コーポレートブランド経営」から以下を引用しています。

環境変化が従来とは比較にならないほど不連続で不透明な時代には、ミドルに権限を委譲した経営スタイルは限界を露呈する。
そもそもミドルはリスクの大きい提案はできない。
トップこそが未来の姿を構想し、自ら変革のイニシアティブを取らねばならない。
ミドルや委員会から発案させて、社内のコンセンサスを作ってから進めるという手法は、スピードという点でも問題である。今こそ、トップマネジメント主導の企業変革が不可欠なのである。

どうでしょうか。この本が上梓されたのは2000年です。
この稿を書いている今は2021年5月、21年の隔たりがあるのに、今の日本の企業や政府が抱えている問題と何ら違いがありませんよね。なんてことでしょう。😅

グローバル経済循環系が当たり前になった現在2021年では、そのミドルマネジメント主導の象徴のようなPDCAにのっとったマーケティングは決定にいたるスピードが遅く時代遅れだと言われています。

現場⇄中間管理職で練りに練った案をマネジメント上層部に上申、多くは差し戻し・練り直し工程に。
これではPDCAサイクルのPの部分で既に多くの時間を費やすことになり、世界が競争相手のグローバル・スピード経営の時代にはとても勝ち残れません。

PDCAの進化系として近年よく話題になるのが、OODAというサイクルです。ウーダと読みます。オーダと読みたい気がしますが。そんなことはさておき。

これはObserve (観察) Orient (方向づけ) Decide (意思決定) Act (実施) の略です。Planはどこに行っちゃったんでしょうか? 

私見ですが、PlanはActに内包されていると思うんです、OODAのループの場合。サントリーの創業者の鳥井信治郎氏の口癖であったと伝えられている「やってみなはれ」、これだと思うんです。

観察フェーズで市場動向やら競争状態を見極めて、方向性を定めたら、これでいこうという経営判断をし、そこからは一気にプラン作成と素早い実行・・・これでないとスピードが出ないでしょう。


元々PDCAは工場などの生産現場で生産効率を上げるための改善サイクルとして考え出された手法なので、マネジメント経営判断には不向きなのかもしれません。

特にOODAではDのDecideが肝なのではないかと思います。これこそ経営判断です。

ちなみにブランディングは、企業の中長期にわたるマーケティング意思を反映するものであり、もっと言えば企業の志の写し絵です。トップマネジメントがコミットすべき領域です。「コーポレート・イメージのキャンペーンは宣伝部に任せてある」なんてことではダメなんです・・・と先述のネスレのマウハー元会長も言っています。(・・・はずです☺️)

梶さんの言った「アドバタイジング」をブランドという言葉に置き換えると、今まさに蘇るその意味と書きましたが、実は氏は「広告の迷走」の終盤になって、真意を詳らかにします。以下要約引用します。

ここまで20世紀の日本の広告の道を間違えさせた「躓きの石」について確かめてきたが、実はもう一つ「隠しテーマ」があった。本書の全編をつらぬく通奏低音である。それはブランドなのである。
20世紀の我が国の広告がおかしくなった理由をひとつだけ上げるとしたら、それは広告主や広告専門家にブランドの意識が全く欠落していたことである。
日本の広告が中途半端で、どこかヘンなのは、「商品を売ること」にこだわるあまり、ブランドという長期的な視点と戦略を欠いて、近視眼的なタクティクスに振り回された結果であると思えた。テレビCMが抱えている問題の背後にも、ブランド意識の欠如が見え隠れするし、新聞広告の危機の真の理由もブランド意識の欠落と無関係ではない。

氏が本を書いた2000年初頭は、ブランド・エクイティ、つまりブランドを企業の資産価値としてみる考え方が
マーケティングの世界を席巻していて、この事に以下のように触れています。

いまさら正面切ってブランドのことを取り上げるのは「お前もかぁ」と言われそうなので、ここまで文中ではできるだけブランドという単語は使わないことにしブランドを語ることにしてきた。

なるほど、それで梶さんは「アドバタイジング」という単語を頻繁に書いていたんですね。

本書が書かれてから20年が経ちました。
「中途半端で、どこかヘン」と梶さんが指摘して止まなかった日本の広告は変わったでしょうか? 「商品を売ることにこだわるあまり」中長期的視点でブランドをつくることをしない・・・こんな状況ではもう無くなったのでしょうか。

残念ながら、20年前と何ら状況は変わっていないようにしか思えません。失われた20年ですね。バブルの時からと数えるなら40年? 

しかし、諦める必要はないと思います。

コロナ禍で経済が減速し、不況がくるのではないかとの不安が高まる中、梶さんが注目していた「不況の時こそブランドを守れ」というテーゼについて、次稿は書きたいと考えます。