必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の55 昭和の名ブランディング〜ミスタードーナツ ②

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walkerplus.comより
<ミスタードーナツ 、以下ミスドに省略します、ミスドのTVCMが1985年に登場した明石家さんま片桐はいりの共演したCMからガラリと変わったと前回書きました。そして続いて、若き日*1ダウンタウンが出演します。

このTVCMが持つ独特のテンポ、どこかで観たような気がしませんか? 既視感、デジャブというか・・・

はい、貴方のいう通りです。あのキンチョーの面白CMとテンポ感が一緒なんです。

実はこれらのCMは、面白CM制作者の梁山泊として知られた、大阪電通クリエイティブの通称堀井チームの仕事なんです。

堀井チームの魔術で、この独特のテンポ感は1987年から始まった所ジョージ演ずる店長シリーズで加速します。

まずは所ジョージ篇ご覧ください。
ちょっと長いので全部見ると5分になってしまいます。😀 明石家さんまさん、ダウンタウンのCMも遡って出ていて重複していますがご容赦ください。
このYouTubeでは、今なら放送禁止な昭和のTVCMという括りで紹介されています。当時でもスレスレだと思いますが、コンプライアンスに敏感な現代では、完全にアウトでしょう。

youtu.be


サラッと本音を言ってしまう、このパターン、実は大阪電通の堀井チーム(敬称略。😀)が得意とする手です。

キンチョーのCMには随所にこの「サラッと本音」技を垣間見ることができます。

同社の沢口靖子シリーズはその良い見本です。見本市。😀


youtu.be


製品の特徴の表示にかぶせて「あ、こんなんどーでもいい」とナレーションを入れてしまうのが凄いです。


「CMで本音を言うことはないだろう」と皆が了解しているTVCMで、コメディトーンに紛れて本音を敢えて言ってしまう。このことに視聴者は驚き、クスッと笑います。

実はこの「クスッ」と笑わされるのが曲者で、このときに視聴者は無意識に宣伝企業に好感を持ってしまうのです。

マリリン・モンロー語録にこんなのがあります。
「女の子を笑わせることが出来れば、どんな娘もあなたの言うことを聞くわ。*2」実は笑わせることが、好感を得ることの肝と言うのがわかります。

最近では、お笑い芸人が二枚目俳優よりモテることってあるじゃないですか。好感するのは笑わせてくれるからだと確信します。

ミスドに話は戻ります。
所さんのシリーズは1986年から2001年まで続くロングランCMになります。

定番の店頭景品プロモーションを面白く告知するという・フォーマットが鉄板ネタになりましたね。「そこまで大したもんじゃない」という自虐ネタを自在に展開して、逆に人々が欲しくなる心理をついてます。

この「たいしたモノじゃないけど」パターンは、チームのクリエイターがそれを知っていたかどうかは不明ですが、まさにマーケティング心理学の「カリギュラ効果」のバリエーションだと思います。

カリギュラ効果」って、つまり禁止されると逆にひとはやりたくなるという心理ののことです。

 1980年に公開されたアメリカ・イタリア合作のローマ帝国の暴君カリギュラを描いた映画があまりに残酷なシーンが多く、放映禁止となる地区が出て、かえって話題となったという事象に因んで付けられた名前です。

 ミスドの場合は、キャンペーンの景品を「たいしたもんじゃない」「別にどーってことない」と言って、かえってひとびとの関心を惹起したことになります。

 これを提案するクリエイターも凄いですが、OKを出した企業、ミスタードーナツが凄いです。ヤケクソとしか思えない。😀 冗談です。懐が広い。

 強かな読みをお持ちだったわけで、リスペクトします。なかなかできるもんじゃありません。


ジングルも効いています。
いいことあるぞ、は「なんかちょっとしたモノがもらえる」を暗示していると思います。



広告批評別冊で出版された「堀井博次グループ全仕事」という本の中で、堀井さん本人がミスドのCMを振り返ってこう述懐しています。

プレミアム広告を続けているうちに、ブランド広告になった珍しいケースです。


ですよね。堀井さんはどういう「ブランド広告」だったかは言及していません。

私が代わりに説明します。といっても、私個人の解釈ですけど。


ドーナツを食べるという食文化がない日本でミスドを成功させるには、とにかく店舗へ顧客誘引することが一番の課題だったはずです。

そのためにこそ、店頭景品プレゼントキャンペーンを定番化したはずです。

そしてもう一つ大事なことは、店舗へ行きやすくするために徹底して敷居を低くすることだったと推察します。

CMではお洒落なドーナツ店という切り口は一切取らず、むしろ逆に一般のフツーの人の姿、つまり等身大を描いています。むしろ等身大以下です。😀

等身大以下の人を描かせたら堀井チームの右に出るものはいません。

ブランディングの決め手はあの「♫いいことあるぞ、ミスタードーナッツ♫」のジングルだったと思います。

ブランド価値は「食べると楽しい気分になる」。
サポートは、ミスドへ行くと景品がもらえて、これもハッピー。

そして、「たいしたもんじゃない」敷居の低さ、行きやすさ。

ふざけたCMの裏にあったのはこうした強かな計算だったのだと確信します。知らんけど。
*3

*1:若き日のダウンタウンとわざわざ書いたのは、明石家さんま片桐はいりは今でも当時と容貌の印象が変わっていないからです。ダウンタウン、特に松本人志は激変です。

*2:原文:If you can make a woman laugh, you can make her do anything.

*3:大阪弁だと「知らんけど」ってこういう使い方をするんじゃないでしょうか。知らんけど。