必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の76 ブランドソーマ 保険の広告②

親の介護、葬儀などでブログを書く心の余裕がなく、結局一年近く未更新となってしまいました。ようやっと落ち着いたので再開したいと思います。

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アフラック保険のTVCM (YouTube より)

本ブログ其の73でチューリッヒ保険のブランドソーマの例を取り上げました。ハローチューリッヒ♪というジングルと並び、今や多くの保険会社が使うようになったヘッドセットマイクをし電話で相談に乗ってくれるオペレーターの女性の姿が実はブランドソーマになっていると書きました。

 

「ブランドソーマってなんだよ?」という方が殆どだと思いますので、まずは其の20でこの事について書いたくだりを簡単におさらいさせてください。

 

元コカコーラでクリエイティブ戦略を担当したBrand Strategistのダリル・ウェーバーは著書 Brand Seductionで、著名な神経学者のアントニオ・ダマシオの、直感というのは無意識 (意識下) の記憶や経験が人をより良い結果に向かわせ、または悪い結果を回避する感情であり、そのように人の行動を誘発するものだとする説を紹介しました。

 

ダマシオは、人の意思決定に影響を与える意識下からくるその直感をソマティック・マーカーと呼びました。Somatic Marker。

 

Somaticとは肉体的なという意味の英語で、心理的 (mental) の対義語です。直感は心理的なものではなく、脳からくる肉体的な信号であるとするダマシオの慧眼です。

 

そして後年、多国籍市場調査会社のミルウォード・ブラウン 南アフリカの会長、エリック・デュ・プレシスは、ダマシオのこの説を敷衍して、ブランドを無意識に想起させ購買に向かわせるSomatic Markerがあるとして、それを「ブランドソーマ」と名付けました。

 

好意的感情を無意識に発露させるブランドソーマを作り、それを広告や店頭広告で展開するのがマーケティング担当者の真の役割だと力説しています。


さて、私が保険会社と聞いた時に思い浮かべるブランドソーマが二つあります、と本ブログ其の73で書きました。 

 

ひとつは上述のチューリッヒ保険のヘッドセットをして電話相談に乗ってくれるオペレーター、そしてもう一つは…ヒントはドナルドです、なんて気を持たせて続きは次回と書いて終わりました。

 

そのくせ一年あけてしまいました。失礼しました。ドナルドは、ドナルドダック、言わずと知れたディズニーの人気キャラクターです。アヒルですね。

 

そしてがん保険Aflacは「アフラック」と喋るアヒルをブランドアイコンにしています。

 

皆さん、Aflacと聞いて何を思い出しますか?

商品としてはがん保険ですが、アヒルを思い出しません? 

 

そうなんです。思い起こす二つ目のブランドソーマはAflacのアヒルなんです。

 

実はこのアヒル、本国アメリカでつくられ2000年から使われているAflacのブランドアイコンなんです。

 

アメリカでアヒルは家族や親しみを連想する動物であったので、ブランドアイコンとしてピックアップされた由。

 

しかもアヒルの声はアメリカで「Quack! (クワック!)」と発音され、これは「Aflac!」にとても似ている発音なんですね。目立つためだけに使われたわけじゃなくて、ちゃんとした理由があったんですね。

 

ちなみにAflacはのAmerican Family Life Insurance の略です。しかし消費者にとってはこんな長い名前は頭に入ってきませんし、覚える意味もない。

 

本国アメリカでも通称Aflacで日本でも近年Aflac アフラックと表示するようになりました。

 

アフラックは日本で初めてがん保険を発売したことで知られていますが、実は世界でも初めてだったんですね。(Aflac Japan ホームページより)

 

本国アメリカではアヒルのブランドアイコンが採用された理由はアヒルが家族と親しみの象徴だから、と先述しましたが、日本では別にアヒルが家族を象徴しているわけではないし、アヒルの鳴き声は「Quack!」じゃなくて「ガーガー」か「グワァグワァ」と言われるので、アフラックの発音とは似ても似つきません。

 

日本でこのアヒルのアイコンが効果的だと私が思うのは、性質上ネガティブなイメージをどうしても払拭できないガン保険というカテゴリーを、少しでも明るい方向に感じさせる効能をアヒルが持っているからです。

 

ヒルって根アカな感じがしませんか?☺️ 根暗じゃないですよね。これ、カラスだったら、根暗な感じがして少し気分が落ち込みません? 笑

 

ということで、実はAflacのアヒルのキャラクターは、日本ではガンの治療を「前向き」に捉えてもらう効果のあるブランドソーマとして機能しているというのが、私の見立てです。どうでしょうか。