必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の86 古畑任三郎と刑事コロンボとヒッチコック

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今回は三谷幸喜脚本の傑作、古畑任三郎について考えてみたいと思います。

 

古畑任三郎は、フジテレビ系列で1994年4月からワンクール放送され、その後第2シリーズが1996年、そして第3シリーズが1999年に放映されたヒット刑事ドラマです。

 

これ以外に総集編が第2シリーズの最後に、スペシャルが計5回、ファイナルが2006年1月に3話仕立てで、そして中学生の頃の古畑の姿を描いた特別編「古畑中学生」が2008年6月に放送されました。

 

第1シリーズは平均視聴率が14.2%にとどまりましたが、評判が評判を呼び、第2シ以降の全ての作品が25%越えとなる大ヒットになりました。

 

よく知られている話ですが、このドラマは最初から犯人と犯行のいきさつが描かれてから始まる、いわゆる倒叙形式と言うスタイルで作られています。日本では流行らないと言われた形式の由。

 

このパターンは、アメリカのヒットTVドラマ、刑事コロンボ※と同じです。そうなんです。古畑任三郎刑事コロンボへのオマージュとして作られたドラマであると、制作陣は公表しています。

 

刑事コロンボへのオマージュと言う意味では、倒叙形式と言う作り方だけでなく、古畑任三郎にはコロンボと共通する演出がなされています。

 

犯行に至るまでの経緯と殺人事件の起きる場面が一通り描かれてから、刑事が登場する点。颯爽と登場するのではなく、とぼけた感じで現れるのも同じ。

 

犯人と対面してかなり早い時点で、刑事は優れた観察力と第六感で相手が黒であると確信するという点。

 

そして相手にボロを出させるために、人を食ったような発言を繰り返し、いろいろな牽制球を投げるという点。

 

このおとぼけが、犯人をイライラさせ、結局はボロを出して自滅するに至るという点。

 

明らかに違う点があるとしたら、コロンボがヨレヨレのコートを着て、未練たらしく短くなった葉巻を咥えているという冴えない刑事であるのに対して、古畑任三郎は毎回黒づくめの衣装でとてもお洒落なところでしょうか。

 

犯行現場に乗り付ける自転車はセリーヌだし。LOL
何せ演じている俳優は田村正和ですからね。

 

ところで。本題です。


古畑任三郎のドラマの世界に誘うブランドソーマ※が2つあると私は見たてています。

 

1つはタイトルバックが終わってからの冒頭のシーンです。暗転の中、Spotlightを浴びて登場する古畑任三郎の短いモノローグ。

 

全くドラマと関係ないように思われる話をします※。

でも後になって見返してみると、このモノローグの内容は実はさりげなく本編に関係のあるものなのです。
このパターンのモノローグが毎回毎回繰り返されます。

 

例をひとつ上げますと…

第1シリーズの第3話、古手川祐子演ずる精神科医が元患者の料理人の恋人を、彼の浮気が原因で撲殺するお話。

 

冒頭、古畑任三郎は、古いストッキングの意外な使い道を語り、切り取った先をスリッパに被せて家の中を歩くと細かい埃が面白いように取れる、ストッキングというのは便利なもので・・・と、ここでモノローグは途切れます。

 

何の話をしてるんだいったい、と思いますよね。

 

実はストッキングがドラマの中で重要な小道具になってくるんですね。

 

古畑任三郎ファンだった私は、オープニングのこのモノローグを聞いては、今回はどんな犯罪劇に紐づいているんだろうかとワクドキして、本編を観始めたものです。

 

このオープニングのモノローグを見るだけで古畑任三郎の世界にready-to-goな気分になれました。

 

誘われる世界は、マレーの欲求リスト※で照合すると何になるのでしょうか。

 

欲求リストのなかに「情報に関する欲求」というのがあります。

これには認知欲求と証明欲求の二つがあり、認知欲求は、知識を得たい、理解したい、好奇心を満足させたいという気持ちで、証明欲求は情報を提供したい、他人を教育したいということです。

 

推理小説を人が好むのは「理解したい」認知欲求をひとが持っているからだと思います。

 

ちなみにNHK大河ドラマを視聴者が好むのは、ひとが「知識を得たい」からなんじゃないかと。

 

だから歴史的事実と異なるような解釈をした脚本には、クレームが殺到するんでしょう。勉強したいのに、史実と違うことを言われたら困るじゃないか、と。LOL

 

ところで。この冒頭のモノローグのシーン。どこかで見た気がするな、と引っかかっていたんです。
ある時に急に閃きました。

 

それ、ヒッチコック劇場でした!

名匠アルフレッド・ヒッチコックが監督プロデュースした1955年から放送されたアメリカのTV番組です。

日本でも放送されました。

 

冒頭に当のヒッチコックが出てきてオープニングトークをします。カメラに向かって今晩のドラマの肝を訥々と語ります。これ、古畑任三郎と同じですよね。あ、古畑任三郎が同じなのか。

 

ヒッチコックの声を声優・熊倉一雄が吹き替えしていて、氏の独特の声が耳にこびりついて残っています。

 

このオープニングトークを見聞きした瞬間に誘われるんです。ヒッチコックの描くミステリーの世界に。 

 

古畑任三郎刑事コロンボだけでなく、ヒッチコックへのオマージュでもあったのですね。
三谷幸喜、さすがです。

 

さて、二つ目のブランドソーマは…

 

それは次回に。

 

 

 

 

最後に。

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刑事コロンボ 原題はColombo。アメリカのNBCで1968〜1978、1989〜2003の2期にわたって、それぞれ45本、24本の計69本が製作放映された人気刑事ドラマ。それまでの刑事像を覆した主演のピーター・フォークの演出が話題となった。

※ブランドソーマ  
グローバル調査会社のミルウォードブラウン南アフリカの会長エリック・デ・プレシスの作った考え方の造語。

ひとの意識下に隠れている「直感」は、多くの経験を踏まえた上での合理的な脳の反応であり、ひとの行動を特定の方向に誘導する、とする著名な神経学者アントニオ・ダマシオの説を敷衍して、ブランドに紐づけられる「直感」がある、それをブランドソーマと呼びたい、とプレシスがとなえたもの。

ソーマ、somaは英語で肉体を意味し、mentalの対義語。直感は根拠のない心理的、精神的なものではなく、脳に記憶された合理的な反射、つまり物理的、肉体的なものであるとする説。 


※ 全くドラマとは関係ないように思われる話  第3シリーズの最終回のモノローグはそれまでとは異なって、シリーズに登場した犯人のコラージュが古畑任三郎のバックに映し出され、これまでの犯人たちは全員が犯行に至る動機を持っていたが、今回の犯人はゲームでやっている、と本編に直接繋がる独白を語ります。

※マレーの欲求リスト
アメリカの心理学者マレーは、ひとの本能から生まれる消費者の動機を研究して、39種類もの欲求リストを作成しました。

 


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