必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の11  グレイトフル・デッドの ブランド・ワールド 〜そうだったのか!〜

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Marketing Lessons from The Greatful Dead by David Meerman Scott and Brian Halligan published by John Wiley & Sons, Inc

 

 

  最初に聴いたレコードは、小学生五年か六年の頃友達のうちで聴いたザ・フォーク・クルセイダーズ*1の「帰ってきた酔っ払い」でした。ソノシートだったかな。赤い着色がしてあった様な記憶あり。

 早回しの録音で甲高い「オラは死んじまったダァ~」と歌い出すこの歌は実にインパクトフルで小学生の記憶にしっかり刻まれました。当時京都の大学生だった北山修と後に伝説のロックバンドのサディスティック・ミカ・バンドをつくることになる故加藤和彦が1967年に自主制作したアルバムにはこのおふざけの「帰ってきた酔っ払い」だけでなく名曲「イムジン河」も入っていましたが、私は当時は「オラは~」しか知りませんでした。

 家では大晦日レコード大賞からの紅白歌合戦を観て、レコード初体験はフォーククルセイダーズだったのに、中学に入って私はなぜか洋楽に心奪われました。

 なぜ夢中になったかはどうしても思い出せないんですが、とにかく1970年代は英米のハードロック人気が炸裂した時で、 Led Zeppelin、Rod Stewart をボーカルに据えたJeff Beck group、Black SabbathDeep Purple、Cream、Maintain、CCR...you name it、今や伝説となったバンドを片っ端から聴き倒していたんです。

 日本もフォークソングが隆盛して、遠藤賢治、高田渡加川良などが世に出てきていました。私は実は彼らの曲はほとんど知らず、竹馬の友がギターをかき鳴らして歌っていた岡林信康の唄、それも山谷ブルースとか1、2曲くらいしか知りません。

 


 そんなハードロック一辺倒の私のレコードリストに一度も並ばなかったバンドにThe Greatful Deadがあります。曲は何度も耳にしたのですが、なぜか記憶に残存しなかった。

 アルバムジャケットは骸骨をあしらった鮮烈なイメージで、ヒゲモジャ&頭髪くしゃくしゃのリーダー、アンディ・ガルシアの個性的な風貌は残るのですが曲がどうしても頭に残らず。バンド名は知ってるけど曲は一曲も知らないバンドになってしまいました。

 

 アメリカでは大変人気のあるツアーバンドで多分観客動員数はトップクラスだったのですが、不思議なことに代表的な大ヒット曲は無いのです。

 ビッグヒットはなにも無いのになんでこのバンドがこれほど人気があるのかなぁ?とは不思議に思いましたが、別にどうでもよかったのでそれ以上考えませんでした。

 それがですね、今回のブログのテーマになっているMARKETING LESSONS FROM THE GREATFUL DEADという本を読んで長年の疑問が氷解したんです。

 これは彼らのコンサートに行かなきゃわからんぜ!と心底思いました。THE GREATFUL DEADは今で言うExperience Marketingの先駆者だったんですね。

 

この本によると…

● コンサート会場の駐車場に車を止める前から揚げソーセージやpot smoke*2の香りがしてき、車を出ると笑い声やお喋り、大音量でかけられるThe Greatful Deadの曲のあれこれが聞こえてくる。

 

● 会場の周辺は食べ物を売る店や、バンドの曲を収めた海賊テープ*3を売る店など、さながら屋台村状態。夕方のコンサートの何時間も前に到着した人々がライブ会場に入る前に此処で飲み食いをしたり、海賊テープの物色をして楽しんでる由。しかも開催側はこれらの出店にコマ代課金はしない。

 

● コンサート・アリーナには観客が自由にライブを録音できるようにマイクスタンドを彼らが自由に立てられるスペースが空けてある。

 

● 海賊テープを録音をする人たちは何月何日のコンサートとクレジットして、後日先ほどのコンサート会場のフリーマーケットで販売している。これがマニアに受けて売れる。

 

● The Greatful Deadはその日のコンサートによってセットリストを変幻自在にに変えるバンドで、このライブ海賊テープのバリエーションが沢山あり、ファンを飽きさせず、所有欲を刺激する。

 

●といっても海賊テープの録音状態はやはり劣悪。結果ファンはThe Greatful Deadがofficialに販売するライブアルバムを購入し、またせっせとライブに通うことになる。

 

●このバンドには熱狂的なファンが存在していて、社会的地位の高い人々も多くいる。彼らは「デッドヘッズ」(Dead Heads)と言われている。オバマ前大統領もデッドヘッズである。

 


 成る程!と膝を叩きました。海賊テープの録音を自由にやらせて流通させて、結果次のコンサートに来たくなる気持ちを増大させ、更には高録音品質のオフィシャルアルバムの購買を促す…コレってつまり今で言うfreemium=フリーミアム*4ですよね。

 コンサートに行くと、会場周辺のフリーマーケットでの飲み食いから始まり、今日のセットリストはどうなるのかワクワクドキドキ、つまりこれはいっときの自由、解放を味わえる

Experience Marketingそのものです。

 


 The Greatful Deadのブランド価値・Emotional Benefit は「自分がホントは自由人である事、その事を思い出させてくれるバンド」ということなのだろうと推察します。オバマさんも政治家という重い背荷物を下ろしてここでは自由解放を満喫していたのでしょう。大統領になってからは流石に来ていないでしょうけど。

 以前書いたHarley DavidsonのEmotional Benefit 「変身願望」と通底するものがありますね。自分が納得する「あるべき自分の姿」に戻る、変身する…とても強いEmotional Benefitです。 音楽は人間性が表出するので、余計にそうですね。

 「ホントの俺は、私は」をいっとき味わう。日本で言うと矢沢永吉

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from the book "Marketing Lessons from The Greatful Dead"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



*1:1965年、大学在学中の加藤和彦北山修が中心となって作ったバンド。

 自主制作のアルバムから後に大ヒットとなる「帰ってきたヨッパライ」と「イムジン河」が収録されていた。

*2:大麻吸引

*3:個人がコンサートで違法録音したものをレコード化したものを海賊盤といい結構流通してました。これのカセットテープ版です。

*4:基本的なサービス・製品を無料で提供し、追加的機能・サービスを課金するビジネスモデル