ネスレ日本のネスカフェ・ゴールドブレンド「違いのわかる男」シリーズに
並び、日本で稀有なロングラン・ブランド広告にはKINCHO*1があると前回書きました。あの面白ければなんでもあり的なキンチョーのCMをブランド広告と言うとは何事かと異論反論の方が沢山いるかと思います。
もちろんこれは私の私論です。どこでもそんな説は見聞きした事はありません。ヒットCMと言われることはあってもブランド広告とは言われてないですよ、100パーセント。😅
バカ言ってんじゃないよ!と怒られるかもしれませんが、よければ我慢して聞いてください。結論めいた事は最後に書きますので、それまで耐えてください。😀 ダメならここで閉じていただいた方がいいです。m(_ _)m
シニアの方はもちろんご存知でしょうが、若い方だとキンチョーがどれほど面白ければなんでもあり的な広告を長年作ってきたかご存知ないでしょう。あらためてご紹介したいと思います。YouTube引用するので、ちょっと長くなるかも。
殺虫剤のキンチョー、最近のTVCMで言うと、
○ 笹野高史がCG合成相撲取りを演ずる「蚊がいなくなるスプレー」
○ 香川照之がおかっぱ頭の少年に扮してプイ〜んと言いながら走り回る「キンチョール」
○ 滝藤賢一が女装しての「ティンクル」
これらはオンエア中なので、YouTube引用しません。
「もう少し真面目にせなあかんちゃうの?」*2と心配になるくらい面白-drivenなCMですよね。
これは、半世紀を超えるキンチョーCMのDNAなんですね。
DNAの端緒は1966年。クレイジーキャッツの桜井センリさんの出演したキンチョールのCM。
商品のキンチョールを逆さまに持って「キンチョール、逆さにしたらルーチョンキ」とやった。これ桜井さんのアドリブで押さえだったのが結果的に採用されたそうです。採用したキンチョーも凄い。昔過ぎるのか、YouTube にありませんでした。
1980年の郷ひろみを起用して以来、不謹慎なくらいに破茶滅茶な路線のCMには枚挙にいとまがありません。
「よろしいんじゃないんでしょうか」は当時流行言葉になりました。
阪神タイガースの掛布雅之選手(当時)の金鳥蚊取りマット(1982)
「亭主元気で留守がいい」はこの年の流行語大賞になりました。
枚挙にいとまがない、と書きましたが、本当にキリがないのでこの辺にしときます。
そんな中で私が一番面白かったと思うシリーズが沢口靖子さんが出演したシリーズです。
美人女優の沢口靖子さん。よくぞ彼女をここまでいじり倒したと感心します。
大阪出身のDNAを持つ沢口さんならではの名演技、迷演技ぶりです。
次いで、傑作と思うのが故大滝秀治さんと岸部一徳さんが親子役を演じているCMです。
商品は水性キンチョール 。息子が水性は環境に優しい・・・と製品特長を説明し出すと、「お前の話はつまらん」とかぶせてくる父。
しかし「水性だから環境にいい」と言うキーポイントだけは何故か頭に残ります。どうでもいい、つまらない事、と言われるとかえって気になる人間の心理をついてます。これを提案するクリエイターも凄いけど、採用するスポンサーはもっと凄い。*3
さて、1980年の郷ひろみ起用以来、キンチョーのCMを制作してきたのは電通関西のクリエイティブ部署にあった通称「堀井チーム」です。偉才、堀井博次を筆頭に、田井中邦彦、石井達矢の三氏を中心に結成していた、いわば面白CMの梁山泊です。
徹底的に目線を低くして、庶民の気持ちを掴むアプローチ。それは等身大というより、もはや等身大以下。😁 でも、面白さの表皮の下に実は本当に刺し込みたいメッセージが隠れています。
大阪の人しか知らない、大阪の人なら誰でも知っている関西電気保安協会のCMシリーズは堀井チームの仕事です。
DNAはチーム若手に引き継がれて、石井氏、田井中氏のクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞(1991、1994) の後にも中治信博(1999)、山崎隆明(2002)の両氏が受賞しています。広告賞を取りまくったのちに電通を辞めて、近畿大学教授に転身した山本良二氏も堀井チームの若手でした。全員もう若手じゃありませんが。😁
さて、本題です。いつも本題に入るのがコラム終盤になってますね・・・すみません、自分の筆性*4なんで。
面白ければなんでもありのCMと冒頭に書きましたが、実はキンチョーの広告には通奏低音的なお約束があります。(私の見るところです、あくまでも😁)
大日本除虫菊株式会社の端緒となる製品の渦巻型蚊取り線香はともかく、我々のよく知る液体噴霧殺虫剤キンチョール、これって直に「殺虫」なわけです。
仏教には不殺生の戒というのがあります。すべての生き物の命を奪ったり傷つけてはならない、という戒の由。一寸の虫にも五分の魂。
1寸は3センチですから、まぁ蚊ははるかにこれより小さいですけど、生き物であることに変わりはないので、蚊とはいえ立派に殺生です。
不殺生、この根っこには輪廻転生の考えがあるはずです。自分は生まれ変わって来世は蚊になるかもしれませんからね。ゴキブリの可能性も排除できない。
一応仏教徒が多い日本人としては、殺虫も殺生という無意識の罪悪感があるのではないかと思うんですね。
キンチョールはちゃんとした有効殺虫成分のあることが化学的に証明できる製品です。
USPアプローチをとってその機能的便益、functional benefitを訴求するならいくらでもできるはずです。
除虫菊に含まれる害虫駆除効果のある天然成分ピレトリンを元に、合成殺虫剤のピレスロイド類を多く研究開発した結果、キンチョーは様々な害虫に速効性のある・・・云々。
このような機能的便益を聞いてもアタマに入っては来ませんし*5、むしろ殺虫=殺生感がどうしても心に刻まれ、後ろめたい気持ちに無意識になってしまうのではないでしょうか。
以前、ブランディングの最高の打ち手は、人の大脳皮質の無意識下にPositiveな感情を刻むブランド・ソーマをつくることであるとするMilward Brown会長のErik du Plessisの主張をご紹介しました。
ブランド・ソーマにはNegativeな感情も含まれます。ブランドを思った時、過去にPositiveな感情を覚えたことがあれば、自動的に「良い感じ」になる感情が表出し、Negativeだと「嫌な感じ」が表出する。その感情がブランド選択に決定的に作用する、とするPlessis氏の説に私は全面同意しています。
先述のように、もし、キンチョールがピレスロイドの殺虫効果を真正面から取り上げて、殺虫のfunctional benefitアプローチでCMをつくっていたら、どうでしょう? 嫌な感じしませんか?
もちろん蚊は、刺されたら痒いなんて症状はともかく、マラリア、テング熱、ジカウィルス感染症、日本脳炎など致死的感染症を媒介する害虫でありますから、死んでいただかなければなりません。
殺さなければならない、しかし殺生をすることになり「嫌な感じ」、この背反する感情を解決したのがキンチョールのお笑いCMです。
蚊に死んでいただくことをコミカルに描いて、無意識下にある罪悪感をなくしているんです、この半世紀以上の長きにわたって作られてきているCMは。(きっぱり😀)
無意識の贖罪意識を狙った意図的なお笑いです。これが不文律になっている通奏低音的「お約束」なのでしょう。
キンチョーのブランド価値は、実は「贖罪意識を満たしてくれる」という事にあったんです。日本人の仏教マインドに共振を引き起こす、とても強いemotional benefitですね。
・・・と散々書き散らかしましたが、クリエイターの方々はそんな事これっぽっちも考えていないと思います。「そんな大層なこと思うんてへんわ。屁理屈こねくり回しやがってこのガキ、アホか!」*6「おまえの言う事はつまらん!」と言うクリエイターの顔が浮かびます。
キンチョーの宣伝部の小林裕一氏もORICON NEWSのインタビューでこう語っています。
「もともとCMって、テレビを視聴する上では、正直いらないものじゃないですか。(笑)
そういうものを見てもらうには、面白さやインパクトで注意を喚起できないといけませんから。」
うーむ。私が展開した「キンチョーのブランディングについての考察」は分が悪そうです。 何を小難しい事言うてんねん! と一蹴されそう。
いや、ちょっとかっこつけて書いてみただけですわ。そんなんどうでもええんです・・・
もうええわ。 幕