必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の 21 広告ではブランドは作れない、という説について

f:id:brandseven8:20201002081604j:plain  最近「ファンマーケティング」という言葉をよく聞きませんか? これまでの、企業からの一方的な商品特長のメッセージ発信では顧客の気持ちを動かせない、という反省から、顧客に寄り添いファンになってもらうという、つまり「ブランドのファンを作るマーケティング」ということです。

  「さとなお」ことクリエイティブ・ディレクターの佐藤尚之さんが野村ホールディングスとファンベースカンパニーという会社*1を立ち上げたのは昨年2019年のことです。


  「ブランドのファンを作るということ」とは書きましたが、正確にいうと「ブランド」というのは顧客の脳の中に総体的に蓄積された好意的な「幻想」でありますから、既に顧客はこの時点でその商品・サービス、物質物体、etcのファンなのですよね。

  したがって「ブランドのファンを作る」と言うと同語反復的なことになってしまいますが、千里の道も一歩から、ブランドが蓄積されていって出来上がる総体的な好意的幻想であるとするなら、まず最初をどう作っていくか。これがブランディングの端緒で、とても大事。広告する前に考えるべきことがここにあります。

  アメリカの著名なブランド戦略家のアル・ライズさんと、カエルの子はカエル、ブランドコンサルタントとして名を馳せることになった娘のローラ・ライズさんの書いた Immutable Laws of Branding(ブランディング22の法則)*2という本があります。

  この本の第三章 "パブリシティの法則”は広告業界人の血圧を上げること間違いなしです。😁

  サブタイトルが "ブランドが誕生するのは広告ではなく、パブリシティによってである”。。。

  そこで書かれていることを要約しますね。要約してもかなり長くなりますが、面白い知見なので。


  "マクドナルドやコカコーラのような大型ブランドを維持するには、多額の広告予算が必要であるかもしれないが、一般に広告が新しいブランドを離陸させることはない。

アニタロディック*3は広告をまったく使わないでザ・ボディショップを巨大ブランドに築き上げた。彼女は代わりにパブリシティの機会を求めて精力的に世界を旅し、環境に関する自分のアイディアを売り込んだ。大量の新聞や雑誌の記事のほかラジオやテレビでのインタビューによってザ・ボディショップ・ブランドが創造された。

スターバックスも広告には大金を使っていない。同社が10年間の広告費用は1千万ドル*4足らずであり、年間売上が10億ドル*5近いブランドにすれば取るに足りない金額である。

確かに過去においては潤沢な広告予算がブランド構築プロセスのキーポイントだったことがあったかもしれない・・・今日、ブランドは生まれ出るものであって、作られるものではない。*6新しいブランドはメディアでの好意的なパブリシティを生み出す力がなくてはならないのである。

あなたのブランドについては*7自分で語るよりも他人が語る内容の方がはるかにパワフルである。だから一般にパブリシティは広告よりもパワフルである。過去20年間、ブランディングでPRが広告の領域を蚕食してきたのはこのため。

しかし長年PRは広告の補完機能として扱われてきた。PR担当は広告スローガンを伝え広告を補強することを求められた。

今や事情は変わった。ブランドはパブリシティによって構築され、広告によって維持されている。

広告会社の幹部にはとりわけPRを軽視する傾向がある。ある優秀な幹部も最近、広告が優れていればPRの出番はない、と発言している。
しかし今日、ブランディングに役立つのはパブリシティであって、広告ではない。

ほとんどの会社は広告を主要なコミュニケーション手段としてブランディング戦略を開発している。これは間違い。戦略は何よりパブリシティの視点から開発されるべき。”


広告業界の人々はちぎれるほど耳に痛い説ではないでしょうか? ライズ父娘が書いたことを盲目的に正しいというつもりはありませんが、ある意味、今日的に広告の抱えている弱点を的確に突いています。この本が書かれたのは1998年です。

  MicrosoftWindows95が世界中でヒットして、インターネット時代の到来が始まってまだ3年しか経っていない時です。

  その後インターネットが情報検索に加えて、人々をWebで繋ぐSNS時代に突入して約15年*8、ますます広告の弱点は明らかに露呈してきています。

  広告の最大の弱点とは、シェアリングに向かないことです。広告は、マス広告であろうが、デジタル広告であろうが、基本は企業発信のメッセージです。


  同書の指摘を待つまでもなく、人は企業が語ることよりも他人が語ることを信じる傾向があります。

  Webテクノロジーが進化してSNS時代が到来する以前は皆が語る声は「クチコミ」と言われて、文字通りダイレクトに人から人へ伝わるしかありませんでした。情報が伝わった人が十人にクチコミ伝播したとします。その十人がまた十人に伝播すると4ステップで1万人に。クチコミ・マーケティングは21世記に入るまでは、広告を強化する意味で注目された手法でした。しかし限定的。

  今日のSNS時代、1万人への伝播は簡単に可能になりました。多くのフォロワーを持つインフルエンサーやセレブリティであれば、一言が伝わるのは一瞬です。テレビの視聴率1%は全国で何人が見ている計算になるのか、雑駁に言って、100万人としましょう。100万人の人にSNSで伝播することは、ネタさえ担保できれば簡単です。100万人のフォロワーを持つインフルエンサーはゴロゴロいます。しかも人は「企業よりも、他人が言うことを信じる」わけですから。

  さて、ここからが本題です。*9 ライズ父娘が言ったように、だからブランディング、つまりファンづくりには広告ではなくて、パブリシティだってことなんでしょうか?

  I repeat, 彼らの書いたことを盲目的に正しいと言うつもりはありません。
「日本は特別」と言うつもりはないんですが、欧米と日本の広告の違いがあります。

  梶祐輔氏が名著「広告の迷走」でずばり指摘したように、広告はブランディングに寄与するよう作るべきだが、日本では15秒TVスポット枠がメインなために短い時間で製品名を連呼するような、短期的利益が主眼の「プロモーション広告」が跋扈してしまった。

  梶さんはブランディングは顧客の信頼を形成するべきで、広告の目的はそこにある、売上増進を求めてはいけない。売上利潤の拡大はプロモーションで行うものだ。
 
御意。

  その通りだと思うんです。
だから、広告はむしろブランディングにこそ注力すべきで、機能的にどーだこーだ、お得だどーだこーだ的な事は一切言わず、信頼と好意獲得に集中すべきです。

  そしてライズ親子とは真逆ですが、パブリシティこそ短期プロモーションに効果があるものと考えます。ユニークな機能のこと、値段のこと、etc...Functional Benefit = 機能的便益、というやつです。今の日本の広告は逆にほとんど全てがFuncitonal Benefit訴求です。

  え?と思われるかもしれませんが、私はそうでないブランディング広告を大日本除虫菊キンチョールですね、が長年作っていると確信しています。「ちょっと何言ってのか分かんない」。ですよね。


長くなったので、その意味は次回に。

*1:ネスレ日本で、バリスタ・マシーン・システムの普及を目的とした、ネスカフェ・アンバセダーのマーケティングを遂行した津田匡保氏が創立時から参画し、2020年4月よりCEO。

*2:東急エージェンシー刊 1999年第一刷

*3:Anita Lucia Roddick 1942-2007. イギリスの女性実業家。1976年にボディショップを創業。イギリス サセックス州リトルハンプトンに一号店を出店。

*4:為替レート1ドル=107円で10億7千万円

*5:同上レートで1070億円。この本が書かれたのは1998年。2019年の売上は約265億米ドル=2兆8,355億円

*6:これには私は異論があります。後ほど書きます。

*7:マーケターに向けて書いているので、あなた=企業です

*8:facebook は2004年に、twitterは2006年に創業

*9:相変わらす前振りが長くてゴメンなさい。