「こんな小さな文字は読めなーい」と大声で言い放ち書類を投げてしまう中年男性。何のTVCMでしょう?と聞かれたら、ほとんどの人が拡大メガネのCMと答えられるのではないでしょうか。ハズキルーペというブランドネームもaided*1ならばかなり高い想起率になるでしょう。
本稿はこのハズキルーペのブランディングについて考察してみたいと思います。
私はシニアメガネのユーザーです。かなり早くから老眼が出たので、遠近両用を使い始めてもう20年になります。そんな自分は、渡辺謙さんが「読めなーい!」と咆哮するCMの前の、実証型のTVCMが放映されていた時から、ハズキルーペには実は心惹かれていました。
石坂浩二さん、ジュディオングさん、長谷川初範さんが小さな文字が大きく見えるメガネ型の拡大鏡のU.S.P.アプローチのCMに出演していました。シニアメガネ、遠近両用メガネですね、これは文字がハッキリ見えるようにはなりますが、小さい文字は小さいままです。読みにくいことは読みにくい。
時計の説明書などは信じ難いフォントの小ささで、閉口した挙句に、拡大鏡を買った事があります。でも小さな説明書のページを開いて左手でおさえて、右手に拡大鏡を持って見ることのなんと不自由なことか。「ここ大事」と思っても、その箇所にラインマーカーを入れることすらできないんです。
ハズキルーペの発売当初の売り文句は「両手が使える新しい拡大鏡、メガネタイプの新ルーペのハズキルーペ」。これいいかも、と直感しました。細かい組み立てが必要になるプラモデル製作なんか、両手で作業できるし最高じゃないかっ!と得心しました。まぁ、プラモデルは作らないんですけど。
私はメガネオタクで、10本以上同じ度数のものを持って使い分けているのですが、メガネのツルのところにそのメガネのスペックが書いてあるんですね。このフォントはホントに小さい。これが読めるかもな、良いなぁと思いました。
でも結局購入には至りませんでした。石坂浩二、ジュディ・オング、長谷川初範、広告タレントの3氏は皆年齢の割に若々しいかたですが、やはりメガネ型の拡大鏡をつけるのは「年寄り臭くて」抵抗があったんですね。ハズキルーペは形状もスタイリッシュで、悪くないんですけど。何故か心理的抵抗がありました。
これが、渡辺謙さんの「読めなーい!」の咆哮CMを見て、コロッと買ってしまったのです。その時の自分の心持ちをあえて分析してみます。
一言でいうとそれは強烈な「共感」だったと思います。
こんなTVCM覚えてます?
ステージの上で、渡辺謙が「ほんとうに世の中の文字は小さ過ぎて読めなぁい! 新聞も企画書も、小さ過ぎて読めなぁい!」と険しい顔をして咆哮、手に持った書類を投げ捨てるんです。
メガネの上に掛けて字が大きく読めるならいいかもな、と石坂浩二さんのCMを観て購買心を煽られながらも、ルーペを掛けて書類を読むのは恥ずかしいなぁ、と尻込みしていた自分。
小さな字が読めない歳になっちゃったのか、情けないな、恥かしいなぁ・・・という気持ちと対峙したくない自分。
ところが、この広告タレント渡辺謙の押し出したトーン&マナー*2はどうです。「読めない小さい字を押し付けてくるアンタたちが悪い!」と暗に言ってるんですよね、これは。
フォントを大きくして企画書を書き直してこい!と言いたいところだけど、私はハズキルーペを持ってるから読め〜る!と言っている。暗に。😀
これを観て「そうだぁ〜!」と大いに共感し、ポジティブな気持ちになり、通販でポチりました。
ハズキルーペはネイリングや歯医者さん、時計の組立て、など細かい作業をする際に便利なんですね。でも一番大きな市場はやっぱり、「こんな小さな字は読めなーい!」が刺激をする書類を読むことや、読書でしょう。
文庫本、読み難くなったら立派なシニア層です。そして今では65歳以上の年齢の全人口に占める割合は3割近いのが現実です。*3
ざっくりいって3人に一人は高齢者なんです。マーケットは大きい。
ハズキルーペの流通経路別売上構成比は知りませんが、多分EC販売経路が一番多いのではないでしょうか。加えて、得心した販売経路ではメガネ屋さんがあります。メガネ屋さんの店頭に販売アイテムとして置いてあったのを見て、膝を打ちました。ハズキルーペはメガネの上から掛けて字を大きくして読むことができるんですね。
それと、美容院にも置いてあるそうです。美容院ではパーマをしている時に雑誌を読みますからね。これって、つまりアフィニティ・マーケティングです。