必ずブランディング通になれる3分で読めるエッセイ〜ブランドのチカラ

ブランディング・コンサルタントの経験譚。Barで若きマーケーターとスコッチ飲んで話す気分で。ブランディング & マーケティング・コミュニケーションのあれやこれやを分かりやすく、自分の言葉で。

其の51 ブランドを語った偉人たち~梶 祐輔 ⑥~

f:id:brandseven8:20210430162754j:plain梶氏は著書「広告の迷走」の中で、広告はアドバタイジングとプロモーションに切り分けられるべきで、アドバタイジングは社の長期的な意思を示し消費者からの共感を得て共に成長するもの、プロモーションは短期的な営業目標を達成するその時限りの戦術的施作である、と力説しています。

氏がアドバタイジングと表現している箇所をブランディングという言葉で置き換えると、氏の主張は執筆時から19年を経た今日現在でも、極めて核心をついています、と以前の稿(其の46 )で書きました。

プロモーション目的に好都合で、アドバタイジング (ブランディング)に不向きな、15秒TVスポットという短い媒体が広告投下の主流になった事によって、日本の広告は迷走してしまった、とする氏の主張は、30年以上を広告ビジネスの最前線に身を置いていたプロとして、残念ですが同意します。

さて、本稿ではこの「15秒TVCM犯人説」☺️と並んで、氏が大きな問題として取り上げていた点を紹介したいと思います。

それは日本企業の組織としての特徴です。

以下、少し長くなりますが、「広告の迷走」から要約引用します。

目先のことしか考えない広告
何回もいうが、この国の広告は目先のことしか考えない。頭の中には「販売戦略」との緊密な連動だけ。ことに新発売商品のキャンペーンづくりの現場では、広告を「経営戦略の一環」としてとらえるという発想はまったく無い。

ひとつには企業の委託を受けている広告会社の責任である。広告会社のプロたちは、短期間に目に見える成果を出さなければライバルに出し抜かれてしまうという潜在意識に突き動かされているから、近視眼的にしか広告を考えない。

世界には、長期的な経営戦略と連動したユニークな広告で成功を収めている企業がいくつもある。その面で日本企業の遅れが目につく。

それらの世界のエクセレント・カンパニーには共通点がある。
ひとつは、広告を重要視していること。
もうひとつは、大企業であっても企業のトップマネジメントが全ての広告を自らコントロールしているということ。
ボトム・アップのデシジョン・メーキングを当然のこととする我が国では、トップマネジメントが広告に関与することは考えられないことである。
けれども日本の広告の迷走は、じつは広告のコンテンツを決定する権限をトップがミドル・マネジメントに移譲したときからはじまった。
その時から、広告は長期を先取りする透視力を失ったのだ。

トップマネジメントが広告を重要な経営マターとして考えてい、自ら関与するというのは、西欧系外資系企業の広告を長くやっていた自分の経験から言って、本当です。

本当ですが、グローバル企業の本社のトップマネジメントが世界の数十ヵ国以上の国の広告を、梶さんの言うように「全て自らコントロールする」のは不可能です。

正確にいうと、トップマネジメントは広告の「てにをは」の細部に関与するのではなくて、商品・サービスの「上位概念」、つまりブランディングを決め、その敷衍がブレないようにコントロールするんです。その意味で、西欧グローバル企業の重要視しているのは、一つ一つの広告ではなく、不変的なブランディングです。

世界最大のグローバル食品企業ネスレの本社CEOを1980年から17年間務め、在任中に売り上げを3倍近くに増やした伝説的な経営者ヘルムート・マウハー*1の言を、ネスレを良く知る百瀬伸夫元電通副社長*2が著書「優れたグローバル企業の経営者に学ぶ・人を大切に育てる経営」で紹介しています。

それぞれの国のネスレ法人の社長に全権を持たせている。
私は現地法人の業績を上げるために、現地の消費者のニーズに沿った商品を開発製造し、現地の文化を理解し、現地の人の心をつかむ広告を中長期の視点で考えることが大切だと考えている。
その意味でネスレにおいて『広告は社長の仕事である』と考え、これを徹底させる努力をしている。

マウハー氏の言を少し解説すると、現地広告をつくるのは現地法人の社長の仕事として全権を委任するが、それがネスレ本社が「グローバル・ブランド」とする商品であるならば、本社の定めるブランディング・ポリシーに沿うことが求められているんです。
まさにTHINK GLOBALLY, ACT LOCALLYですね。

グローバル・ブランドって例えば、日本人がよく知っているブランドではNescafé、Kit Kat、MAGGI、MILOがそうです。それぞれにBrand Guidelineがあります。

ネスレには2000を超えるブランドがあり、売上が1,000億円を超えるブランドも30近くあるそうです。

さて「広告のコンテンツを決定する権限をトップがミドル・マネジメントに委譲したときから日本の広告の迷走が始まった」と指摘した梶さんは手を緩めないんです。😭

現実に広告のハンドルを握る宣伝部長氏は「長期的な視点は意識して将来のことも考えて広告を決めている」と仰るかもしれないが、社内人事異動で2、3年で交替する宣伝部長が言う「将来」とは何年先のことなのか。3年、5年?それではあまりにも近未来。

舌鋒鋭い梶さんの言を紹介していたら、なんか頭が痛くなってきました。本稿はこの辺で・・・☺️

日本企業に特徴的なこの組織的問題についての梶さんの持論は、次の稿に続けたいと思います。

*1:1927〜2018。 ネスレの名誉会長。ドイツ・アイゼンハーツ生まれ。

*2:1933〜2020。電通で営業幹部を務めたのちに海外事業を牽引した。