私の敬愛する以前勤めていた会社のメンター先輩だった現中央大学大学院戦略経営研究科教授・日本マーケティング学会会長の田中洋さんは大著「ブランド戦略論」で、ブランドの定義について以下の様に書いています。
"Kapferer※ ( 2008 ) は、ブランドの専門家の間で最もホットな議論の1つがブランドとは何かについて見解が一致していないことであるといい、Avis※ ( 2009 )は、さまざまなブランド定義をレビューしたうえで、ブランドという言葉を定義することは、「群盲象を評す」という状況に近いと述べている。”
田中さん…いきなり突き放さないで下さいよ☺️と言いたくもなりますが、氏は “本書ではブランドを、「交換の対象としての商品・企業・組織に関して顧客がもちうる認知システムとその知識」と定義する”とちゃんと後述してます。
なるほどです…って本音を言うと自分には難しくてよくわかんないですけど。☺️
真面目な話、ここで言われた「交換」というのがキーワードなんです。長くなるので、これについてはまたいずれ書きます。
同書で自分ごとなので「わかる! アルアル!」と首が痛くなるほど首肯したのは ”ブランドが認知システムの働きに従うというとき、重要な2番目※ の働きがメタファーである。“メタファー ( metapher = 隠喩 )とは、「人生は旅である」という表現のように、抽象カテゴリー ( 人生 )を理解しようとする時に用いられる、具体的な概念 ( 旅 ) との間に成り立つ対応関係のことである( 大堀、2002 )※ 。” というくだりです。
簡単に言うと人生を例えるに旅を当ててみると言うことですね。旅がメタファーとなって、人生を連想させる。目的地を決めた旅もあれば、何も決めずに足の向くまま進む旅もある。
人生も然り。同書で田中教授はこのメタファーの一例としてロッテがチューインガム製品に用いたタグライン (スローガン) の「お口の恋人」をあげています。
昭和世代じゃないと知らないかな。「お口の恋人」はチューインガムの感覚 ( 抽象的カテゴリー )を恋人との関係 ( 具体的観念 )において表現している、と氏曰く。
恋人とキスをするなら、お口をスッキリさせておかないとね…という暗喩だったんでしょうね。
当時はブレスケアとか便利な商品はなかったので、確か高校生の頃にはデート前に何かを期待して「お口の恋人」を噛んだ記憶があります。
結局夢儚く終わり、敗北感につつまれ家路についた記憶もありますが。☺️
ブランドについてひとに説明する時に、わかりやすいのでよく例にあげるのが
メルセデス・ベンツです。
言わずと知れた世界に冠たる高級車。1999年に上梓された東京大学経済学部・片平秀喜教授の名著「パワー・ブランドの本質」で、当時のツェッチェCEOとのインタビュー中の言葉を紹介しています。
ツェッチェ氏曰く ”メルセデス・ベンツのコア・バリューは最高の品質、革新性、耐久性、安全性。これは守り伝えていくべき一貫した基本的考え“ だと。
コア・バリューというのは欧米の外資系企業ではやたらと出てくる言葉で、直訳すると核心的価値。要は何が優れてるのか、ということ。
メルセデス・ベンツではThe Best Carということです。
メルセデス・ベンツのスローガンはDas Beste order nichts。ダス・べステ・オーダー・ニヒツ、これは創業者の一人ゴットプリート・ダイムラー氏の言葉の由。
勿論ドイツ語です。英語にすると Best or nothing。最上さもなくば無。ドイツらしい厳格さです。キビシー。
で、この The Best Car、これがブランディングなんでしょうか? 私は全くそうは思わないんですね。
ツェッチェ氏はこの片平教授のインタビューで、「メルセデス・ベンツの顧客を一言で表現すると?」と問われ、次の様に答えています。
"成功がキーワードだ。成功した人、成功しつつある人が我々の顧客で、そのお手伝いをするのが我々だ。“ と。
これこそがメルセデス・ベンツのブランディングだと思います。
成功した人、成功しつつある人、ってターゲット・プロフィルでしょうか?
いやいや、これは抽象的概念でターゲット設定にはなりません。
「ブランド」とは顧客のアタマの中にある、顧客がイメージする商品・サービスの抽象的な Emotional Benefit※ です。
「メルセデス・ベンツの所有者の自分は成功者。成功しつつある自分だからメルセデス・ベンツを選んだ。」という自己満足イメージこそが、ブランド・イメージに他なりません。
この様なブランドイメージを創り上げるためにダイムラー・ベンツ社は創業以来全方位で活動をしてきました。
それは広告活動というより、むしろ具体的な製品やカスタマーサービスなどを接点として、まさにツェッチェ氏が「顧客のお手伝いをするのが我々」と言う様に、一方的なものではなくメーカーと顧客が共創してきたイメージです。
成功者というブランディングが絶妙です。富豪、スーパーリッチなひとはもっと高い車に乗るでしょうね。
そもそも自分で運転はしないのでしょう。ショーファーがロールスロイスを運転しているのでしょう。
「成功者」とは自己基準ですから。これって大事なことです。顧客の自己基準でブランドの姿形が都合よく変幻するのが最強です。
で、確かにメルセデス・ベンツは成功ブランドだろうけど、要はある程度高額商品じゃないとブランディングもへったくれもないんじゃないの?という意見もあるでしょう。
というか、そういう意見の方が大多数じゃないでしょうか。これにお答えするのに格好の例であるネスレのチョコレート、キットカットのお話をします。
って、長くなっちゃったので※ ここでひと休み。Have a break, Have a Kit Kat! ※
次回はきっとキットカットのお話☺️
※ 注釈
Kapferer…Jean-Noel Kapferer。ジャン・ノエル・カプフェレ。著名なブランド論学者。
Avis...Mark Avis。ニュージーランドのブランド論学者。
2番目の…以下の三点が上げられている。① カテゴリー ②メタファー ③ イメージ・スキーマ(メタファーによって表現させる抽象的な意味の構造のこと by 大堀寿夫)
Emotional Benefit...情緒的便益を表すマーケティング用語。反対の意味を持つ用語としてFunctional Benefit = 機能的便益がある。
長くなっちゃった…当ブログは3分で読めるブログを目指してます。
Have a break, Have a Kit Kat...世界中で長らく使われている Kit Katの tag line (ブランド・スローガン)。
ちょっとひと休みしよ、キットカット食べて。という意味。